| 東京の五味商店と小峰時計材料店の廉売合戦
《昭和七年》 東京の五味商店と小峰時計材料店の対抗意識は、他の地域の同業者間でも噂に上っていた。昭和五年以降の時計材料界における廉売合戦と、その混乱ぶりは想像に絶するものがあった。そんな関係から「東京時計原料組合」と「関西時計材料組合」の時盛会、「名古屋時計材料商組合」の各代表が相まって時局の収拾に乗り出し、話し合った結果、三都連合会の名において業界損失防止案なる決議書を作成し、実行に移すことで話し合いがついた。昭和七年七月の事であった。 これは、世の不景気風に寄って来る影響の締めくくりを付けたものである。
業界損失防止条項決議規定
当時は、為替の変動が著しく、かつ財界の極度な不況の結果、同業者の競争が激しく、あるいは商報に、あるいは広告に破壊的な相場の出現となり、同業者の迷惑千番ならず、これを放置すれば、ついに救うべからざる結果を見るに至るべく、三都時計原料商組合は緊急会議を開き、下記の事項を決議した。会員は勿論、会員外の賛同を求めて根本的に業界の健全なる発展を期すものである。 1、 定価表を発行するのは、一般的普及せられたる商品及び再低価格品の価格を時の相場により、本会において協定したる建値以下を以って販売することを得ず。本会員は、商道徳を重んじ、なお他人に迷惑を及ぼす如き、挑戦的な宣伝をなすか、または虚偽の広告をなすが如き不徳行為をなすことを得ず。 2、 本会又は第三者を問わず、業界を攪乱するが如き不当廉売を為す者及び、これを援助し、商品を供給するものに対しては、全会員の決議の上、売買取引を停止する事あるべし。 3、 以上三項に対し、万一違反する者ある時は、諸会において警告を為し、なお改めざる者、ある時は連合会の決議により売買取引を停止する。以上。
上は昭和七年七月七日、愛知県蒲郡の常盤館に於て決議し、三通作成記名調印の上、各一通を所持するものなり。 昭和七年七月七日 関西時計材料「時盛会」 東京時計原料商組合 名古屋時計材料商組合
上之通り、三都時計原料商組合に於て決議実行可仕候間、貴殿に於ても御賛同被成下度侯
以上、三都時計原料卸商連合会の趣旨に賛成仕侯(次第不同) 服部時計店(東京市京橋区銀座)、服部時計店大阪支店(大阪市東区博労町)、ケーエヌ材料店(東京市下谷区西黒門町一九)、岩永新太郎(東京市浅草区瓦町二八)、スター時計商会(東京府豊多摩郡戸塚町大字戸塚八五六)、シチズン時計、ヱルーシュミット時計工場 オーバーシーートレーディング会社、金森商店東京支店、中島夏雄、坂口勝冶、水谷勝福天賞堂、山中清堂、石川文一、加藤佐吉、谷文一商店、中島商店、池上商店、山内厳商店、西川時計店、エルーエデイキン商会、植村商店神戸支店、村上金左右、友沢真工舎、瀬山信三、村上徳太郎、寺谷忠雄、松下商店、池田商店、小西光沢堂本店、黒田時計舗。
追加決議事項 @ 取引先に於て不払又は不法行為のある場合は、各所属組合長に通告し、組合長は組合員に承認を求め、組合員は自己の取引円満なるも他の不払行為の有る事を認めたる場合は即取引先に警告を発する事。 A 連合会の費用として一ヵ月一人当り金拾銭宛各所属組合にて徴収の上、積立する事。 B 会員の発行する商報は、発行する毎に各組合長ヘー部宛送附する事。 C 総ての寄附行為は、所属組合の決議を経るにあらざれば、一切なす事を得ず。 D 鯨印油及び孔雀印の針先は、製造元へ交渉の上値段協定する事を得ず。
昭和七年七月七日 関西時計材料「時盛会」代表:富尾清太郎 東京時計材料商組合代表 :小川 静 名古屋時計材料商組合代表 :水谷才次郎 |
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