| 戦時中信州松代所在にあった大本営の資材物資に
《昭和二十四年》 昭和二十四、五年の頃、市場閼係にはとんでもない物が舞い込んできた時代があった。この中で貴重品など何処とはなしにとび出して来たものであった。勿論、持ってくるネタそのものが、総て正真正銘のものだとは受けとり難いものもある。とにかく湧き出た珍談には、一応耳をかたむけるのが商売上の常道になっていたので、先ずは竹内武一君が持ち込んで来た話から書くことにした。 その話は、信州長野市の在で、現に地震騒ぎで慄いている松代町にある旧大本営についての話である。そこは戦時中の避難用に建てられた大本営であり、そこへはいろいろな軍作戦上必要であり、かつ貴重な資材物資が持ち込まれていたという。その中にダイヤモンドが入ったトランクがあるから、それを持ち出して処分することになったというのである。品質は工業用ダイヤモンドということであり、量は四貫目に余る程のものだから買おうじやないかという相談であった。 価格は、四十二万円という触れ込みであった。そこで、この品物の持ち込みを待ったのであったが何日になっても持って来なかった。然し、この品物とおぼしき部類のものが、その後、陸続とある市場のセリ場台に現われ、投売されるとの報告があった。本当のことであるかどうかは別として、このダイヤモンドが入ったトランクの実在をめぐって、当時業者間では大騒ぎだった。これも戦時中に残した業界関係品の面白いエピソードの一つである。 |
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