佐藤英昭の「特許の哲学」
2017/03/02
特許の哲学 10
人類創造のよろこびは発明である
全人類の歴史は,文化として人から人へ絶え間なく歴史の中で受け継がれ,歴史を創造する喜びにほかなりません。人間の知性は,人間の歴史そのものであり,知的創造は,歴史を創ることであり,発明の喜びは,昔も今も,世界人類の新しくかつ永遠の喜びであります。母が子を生むように,発明することは,補足・伝達の人間の知性・人類の喜びであり,ロボットはこの喜びをもたないのです。
特許法は第2条第1項に「この法律で発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定義しています。多くの人は,発明の概念は完全に定義し得るものではないので,反って世人を誤らせる結果になるから定義的規定を設けるべきでないと主張していたし,私も,発明の概念は,時代により概念と範囲が変化しなければならないことを考えると,定義すべきではなく,運用に委ねるべきであったと思料するものであります。
2016/12/21
特許の哲学 9
人類最大の発明「言葉」
私たちは,自分自身の中に全世界が反映しており,その反映された世界の中に自分自身が存在していることを意識しています。
「我想う故に我有り」--デカルト
人間は,肉体を進化・特殊化させた動物と異なり,自然に対し直接的だけでなく,間接的にも触れたとき,「なぜ?」と疑問が生じ,この疑問符が人類最大の発明である言葉を生むことになりました。
「話し言葉」と「書き言葉」とから成り立っている私たちの言葉は,単なるコミュニケーションの手段だけでなく,それ自体に,このような世界観を表現できる構造を持っているのです。換言すれば,こういう言葉を発明することができたため,宇宙観と死生観を形成することができたともいえます。
動物の言語では,事物から概念が抽象されることはあっても,概念から概念がつくられることはほとんどありません。私たちの言葉は概念から概念がつくられます。
この言語構造の世界は,その内部に宇宙を反映しているのです。
2016/12/14
『特許の哲学』 其の8
宇宙の原理と知識の複合
人間は,知性によって複合された経験的な事実を包括的に眺める段階になって,其々の経験は全て特殊なもの,単にうわべを感じとっただけのことであり,それらの底に流れる一般原理を意識しはじめ,発明として活用できるのです。
人間は,発明に一般原理を客観的に用いることで,環境を構成する物質資源を再配置することができるようになり,人類は全体として成功できるようになり,宇宙のさらに広範な,様々な問題にも対処する用意ができるようになると思われます。
人間の知性は加速度的に優位に立ち,人間は生き延びる可能性を何百倍にも強めていきました。ギア,滑車,トランジスタ,そこに潜んだ梃子(てこ)の原理によって,「より少ないものでより多くのことをなす」ことが,物理,化学の多くの方法で可能となりました。物質的に利用できる一般原理を超物質的に感知して,それによって人間の生存と成功の可能性を知性的に高めていくことが発明なのです。
2016/11/07
特許の哲学 其の7
人間の「心」には宇宙の神性・霊性が宿っている
人類が初期の試行錯誤によって見出した能力開発の段階から,心は発明機能を有していた。人類は,裸で生まれ,「空腹」と「のどの渇き」とによって「蜜を求めて」飛び回るという生物的動きであっても,心の作用にうまく機能するよう,染色体にプログラムされていた。
人間はその心により,法則化された自然の地質的・気象的な変化にともなう生物種の再生的な相互循環が,世界中で複雑に補足的に作用し合う効果を事実上生み出してきたことを認識してきた。人間の心が,人間の知性により,優れた知性が宇宙に働いていることを直接的に経験してきた。
人間の心で,相互に引き合う方向に対して90度の角度の軌道を回る,超銀河系,銀河系,太陽系,恒星,衛星,彗星,小惑星,宇宙塵,未結合分子,原子,そして原子のなかの電子と同じように,人間関係においても,人は影響力の強い隣人のまわりを楕円形の軌道を描いて回っていることを経験してきた。
2016/09/06
特許の哲学 其の5
「発明」することが人間の特質である
人間以外の生物は,機能上きわめて専門的に動くようデザインされています。しかし,人間には,全方位とはいかないまでも,幅広い適応性が求められました。そのため,人間には,調整用のスイッチボードたる「頭」以外に「心」が与えられたのです。
人間は,「心」で,走る,飛ぶ,潜ることについての一般原理を習得・理解し,車,人工の翼や肺を発明することができました。鳥が走ったり歩いたりするには翼が邪魔になり,魚は海や池や川から出て陸を歩けません。鳥も魚もその道では,人間より優れた機能を肉体的に有しているのです。
人間は,「霊長類」に属する哺乳類です。霊長類には人間が含まれることから,霊長類の最も高等な哺乳類であると思いがちです。しかし,最も原始的な哺乳類の一つが霊長類なのです。
原始的というのは,進化によって肉体の特殊化が進まなかったということです。ゾウの鼻やキリンの首には大きな特徴があるし,ウシやウマでも能率よく駆けるための四肢骨はある特定の骨が強大になり,他の骨は退化しています。霊長類は,モグラやジネズミなどの食虫類と互いに近縁関係にあり,その共通の先祖は長く哺乳類の原型に留まっていました。
環境の変化に応じ,他の哺乳類のようには肉体が進化できなかっただけでなく,食肉獣に追われる身となりました。
あるものは,地下にもぐって難を逃れモグラになり,最後に残された生態圏である樹上に逃れたのが霊長類です。樹上生活は危険もありましたが,遠くを見ることが視覚の発達をうながし,樹上ということが空間認識を発達させたなど,その影響は,はかり知れないものでした。
2016/07/29
特許の哲学 其の4
発明の意味
先日,読者から「発明」とは何なのか?いわゆる発明の意義についてのご質問がありましたので,今回は「発明」についてご説明いたします。
広辞苑では,「発明」の意義を「@物事の正しい道理を知り,明らかにすること。A新たに物事を考え出すこと。B機械・器具類,あるいは方法・技術などをはじめて考案すること。C賢いこと」と解しています。
また,地方によっては,発明といえば,賢い人,利発な人という意味に用いられています。
従って「発明」とは,一般的に,賢きこと,物事を賢く考えることであり,これは将に芸術と結論できます。
芸術は,人間の細胞60兆個,脳細胞だけで神経細胞とグリア細胞を合わせて140億個あるといわれている膨大な細胞(小宇宙)から,創造性を引き出すことです。
芸術には,宇宙の永遠に自己再生的で知的な完全無欠性(integrity)という,先験的で永続的な存在が欠かせません。先験的,永続的,全包括的で,無限かつ完璧に関与する知的な完全無欠性が存在するということは,ただ経験的に心でしかキャッチすることができ得ないものなのです。
(特許業務法人共生国際特許事務所佐藤英昭所長)
2016/07/29
特許の哲学 其の3
特許を制する国が、世界を制する
特許の文字には、特別の許可、独占的許可、特権の賦与の意味があります。
しかし、特許は、各国でパテント(Patent)と称されております。ラテン語のPatentes
(開くの意)に由来し、イギリス中世の国王に発する開封特許状(Literal Patentes)、すなわちLetter Patentになったものであります。
世界における特許制度は、15世紀にイギリス国王が都市、「ギルド」、特定商人に独占の特権を与えたのに発しております。しかし、既に古代ギリシャの都市レバリスでは、特別な料理の考案者には1年間の独占権を与えたといわれております。また、1474年のヴェネチェア共和国の特許法で発明者に10年間の特許権が認められております。ガリレオ・ガリレイは、1594年揚水装置についてヴェネチェア共和国から特許を受けております。
特許制度は、人口わずか20万人の資源の乏しい都市国家から始まり、その後、オランダを経由して、イギリスに伝わり、現在われわれの有する特許制度の基礎になったものであります。
中世のイギリスは、ヨーロッパのなかで後進国であり、産業の振興が重大政策の一つであったからであると考えられます。
当時の特許制度は、今日のような発明に与える特許制度ではなく、特種の営業に与える特許制度でありました。当時イギリスでは外国貿易発展策として、特定の貿易業者に(東インド商会が東インドの貿易を独占)、また王室の財政上の援助をした者に一定の地域または一定の商品を限って製造、販売の特権を独占させたものであります。
その後、「エリザベス」女王の時代には、この制度が、王室の収入増加のために濫用されるようになりました。時恰も、自由民権の思想の盛んな時代でありましたから、国会は、裁判所に対し、女王が営業に与えた特許が、是認されるべきか否かを審理せしめ、1623年に、特許は発明にのみ与えられるものであると判決され、1624年成立したのが、専売条例(State of Monopolies)であり、1760年代の紡績機械の発明に始まる産業革命の受け皿を準備したものでありました。こうして今日のイギリスの発明特許の制度が確立されました。
ドイツ、フランス、イギリス以外の諸国も次第にこれに倣い、世界の発明特許制度が確立されました。わが国においても、徳川時代に、貨幣の鋳造、度量衡器の製造、販売その他の特権の商品の製造販売の許可を特許と称していたけれども、今日においては、特許の文字は、発明の奨励、保護の法律である特許法の独占用語となりました。
永年使用され、社会通念として、特許発明の文字は登録発明の意味に観念され、特許、「パテント」の文字は、国際的に特種の一定した意味を有するに至っております。
特許は、資源の乏しい国、弱い国、後進国で制度として確立したが、特許を制する国が、世界を制することになるのであります。(特許業務法人共生国際特許事務所佐藤英昭所長)
2016/05/30
特許の哲学 其の2
発明や特許の基本的理由
「宇宙の法則」や「人間の尊
厳」との関係
私は、つねづね、「発明」や「特
許」に関する教科書や論文には、種々の関係から、最も重要と思われるものが欠けていると思っております。
それは、発明や特許の基本的理由として「宇宙の法則」や「人間の尊厳」言い換えれば「宇宙の仕組み」や「人間の心の仕組み」と関連があるということをシステマティックに叙述することではないでしょうか?
そこで、私は、ある程度、統一的な思想に基づいた「特許」と「発明」に関し、理解をもてるようなものを書いてみたいと思っていました。
実は、上記のような希望から、これまで、いくつかの雑誌に若干の問題について書いて来たことではありますが、そうしたものも、ここに含まれております。ここでは、「発明」と「特許」についてしか論じていないが、他日、同種のもので残余の問題についても書いてみたいと思っています。粗末な内容のものではありますが、こんなものも、一つ位はあってもよいと考えております。
これによって、「特許」と「発明」に関する諸問題に対する断片的な知識を統一するのに役立てば、幸いだと思うし、願わくば、一つの理論的体系に基づく発明・考案等知的財産の思考に習熟してもらいたいものであります。
以上のような目的から、文献は、とにかく私自身の考えを理解してもらうのに必要な最小限度のものにとどめました。だれかれがどうだという前に、一人の実務家の一つの統一的な説明を理解してもらえたらと考えます。
後人は先人の研究を基とし、技術が頼りになる強力な夫であり、法律が円満で公平な妻であり、特許発明は可愛い子供になるでしょう。(特許業務法人共生国際特許事務所佐藤英昭所長)
2016/04/27
佐藤英昭弁理士による『特許の哲学』 その@
「発明」や「特許」を真に理解してもらうためには
人類は、発明を人類共通の資産として、その発明の保護及び利用を図る特許制度を利用し、永遠の進化をとげるものであります。
私は、本紙の読者を対象に、「発明」や「特許」を真に理解してもらうため、いくつかの重要な点について自説を平明に述べてみたいと思っております。
読者の皆様は、発明というと、すぐにワットが発明した蒸気機関車が産業革命の口火を切ったとか、蓄音機や白熱電灯を発明したエジソンが発明王と言われたということを思い浮かべて、特別な親しみを感じることでしょう。
ところが発明や特許は、一度頭を突っ込んでみると、極め難く、当初の予想に反して難しい学問であることを知るでしょう。
成る程、内燃機関、電気、有機化学などの発明が産業の発達に貢献したことは良いこと、というぐらいは、極めて常識的な判断の帰結でありますが、ひとたび科学的に理由付けるとなると、それは難しいことであり、それだけにまた大切なことなのであります。
従って、私自身がそうであったように、多くの皆様方にとって、諸先生の講義を一偏聞いただけで、発明や特許を理解することは、極めて困難なことでしょう。
その上、一般に、特許法等の条文のことを知っているが、特許の基礎(考え方・思想)を基本的に理解しない場合もあります。そこで私は、自分自身が疑問に思ってきたことも含め、特許の基本的理解のために役立つであろうと思われることを、いくつか説明していきたいと思っております。
ここでは、いわゆる論文や教科書という形態のものではなく、約50年前から発明や特許に触れ、実務を通して今日に至るまで疑問に感じている「発明」や「特許」について、自説を試みたいと思っております。(特許業務法人共生国際特許事務所所長)