佐藤英昭の「特許の哲学」
2018/01/31
特許の哲学 その21
1885年(明治18年)4月18日専売特許条例公布
1885年4月18日太政官布告第7号を以って,新たに専売特許条例が公布された。この条例は,特許制度の恩人,高橋是清の起案で,28箇条から成り,1872年3月29日に施行中止となった専売略規則に比べて詳細な規定を設けた。
同氏はこの条例公布の二日後(4月20日),専売特許所長に任命され,その施行の責任者となった。
この条例第1条には「有益ナル事物ヲ発明シテ之ヲ専売セント欲スル者ハ農商務卿ニ願出其特許ヲ受クヘシ農商務卿ハ其専売ヲ特許スヘキモノト認ムルトキハ専売特許証ヲ下付スヘシ」と規定し,出願前公知・公用及び医薬の発明には特許を与えないこと,特許権の年限を一律に15年,さらに,追加専売特許・強制実施・専売特許の無効及び失権等の制を採用,特許権の侵害罪を親告罪として,没収品を被害者に与える旨を規定。附則において,本条例公布前の免許を有効のものとした。
当時の出来事(1885年12月内閣制度創設)。(特許業務法人共生国際特許事業所所長)
2018/01/31
特許の哲学 その20
我が国の技術と特許
わが国では、徳川幕府の鎖国政策の下、新規なこと自体、支配体制に対する反逆とみなされていた。その政策の実例が、享保6年の新規御法度という触れ書であり、そこには「一 御服物、諸道具、書物は申すに及ばず、諸商売もの、菓子類にても、新規に巧出し候事自今以後堅く停止たり、若し拠なき仔細これある者は役所へ提出、ゆるしを受け仕出す可き事」と記してある。
1870年に電信機、蒸気機の製造が政府で建議され、発明の重要性が認識され、1871年4月7日、太政官布告第175号を以って発布された専売略規則が発明特許に関する最初の法規である。
明治の初め、他の産業保護に関する規則に先立ち、発明特許に関する規則を発令した事、また、発明のみでなく、在り来たりの物でも新工夫をなし、世用の便を為すものには官許を与えること(後年の実用新案)についても考慮したことは、明治維新に際し、当局者の見識が如何に優れていたかを示すものである。(特許業務法人共生国際特許事業所所長)
2017/10/30
特許の哲学 其の19
物の発明と方法の発明
物又は方法が発明であるというのではない。技術的思想の創作である発明が,物又は方法によって表現されるのである。物の発明,方法の発明という用語は,正確な用語ではない。
物の発明は,技術的思想の創作が,物の外形(形象,外観,内部構造)に現れ,その物の使用価値が増大された場合に観念され,方法の発明は,技術的思想の創作が,方法に現れ,その方法の使用価値,又はその方法によって生産した物の使用価値が増大された場合に観念されるものである。
方法の発明には,物を生産する方法の発明と然らざる方法の発明がある。
化学的方法,織り方,編み方等の発明は前者に属し,通信方法,測定方法,物の性質の探求方法等の発明は,後者に属する。
特許法の運用に当たって,方式の発明という文字がよく用いられる。これは,方法の発明と,その方法の発明の実施に直接使用する機械,器具,装置その他の物の発明との総合又は結合の場合に用いられる文字である
2017/10/02
『特許の哲学』 其の18
発明の有用性
特許を受けることができる発明は,有用なものでなければならない。
有用とは,実用・有益の意味で,必要というよりも狭き意味である。今日の極度に発展した産業の発達において,人類の生活に直接関係ある有用な技術的工夫でなければ,特許法は厚く保護しない。
一方,人の美的感覚に作用し,装飾的価値のみ有する技術的工夫は,意匠として意匠法の保護を受けることができるが,特許法の保護を受けることはできない。
しかし,一つの物の技術的工夫が,発明として特許法の保護を受けることができるとともに,意匠として意匠法の保護を受けることができる場合があり得ることを忘れてはならない。
発明は,技術的思想の創作であり,技術的所産物であるけれども,発見は人に知られずして従来からあったものを見出すことであり,技術的所産物ではない。発見を見出すに技術的工夫を必要とした場合でも,それは発見の手段に過ぎない。発明と発見とは,その性質を異にする。
2017/08/31
『特許の哲学』 其の17
発明の視点
発明は,現在から未来に視点を向ける創作である。
ある時代においては発明であったものも,次の時代には発明と認められなくなるものである。ある発明の改良又は拡張も,技術程度を超えたものは発明を構成する。単なる材料の置換,単なる設計の変更は,発明を構成しない。ある発明に多少の変更を加え,同一の効果を生ずるに過ぎないものも発明ではない。構成分子の変更,構造の変形に,現在程度を超えた技術を要し,又変更,変形によって特殊の効果を生ずる場合には発明が存するのである。専門技術家が,容易に思考し,推考し得るものは,発明ではない。結合は発明を構成するけれども,総合は発明を構成しない。均等物の置換も発明を構成しない。
また,高度の工夫でなければ,特許法が保護する発明とは認めがたいのである。産業の発達に寄与することを目的とし,国力の発展の基本である特許法としては,高度でない発明は特許法で重く保護する必要がないのである。
2017/07/28
『特許の哲学】その16
発明は技術的思想の創作である
創作とは,初めて作られ,工夫されることである。発明の新規性は発明の本質,発明の要素であり,発明の特許要件ではない。発明が新規な工夫であることを要するのは発明の要素である。新規とは,従来なかったことをいうのである。新規でない技術的思想は発明ではない。
従って,発明者が意識して何らの技術的思想を案出していない天然物(例:鉱石),自然現象等の単なる発見は発明に該当しない。しかし,天然物から人為的に単離した化学物質,微生物などは創作したものであり,発明に該当する。
また,発明は,進歩した技術的思想でなければならない。現在程度の技術によって,容易に思考され,推考されるにすぎないものは,発明を構成しない。発明には進歩性を必要とする。
ある時代においては発明であったものも,次の時代には発明と認められなくなるものである。発明の進歩性有無の判定は困難なことではあるが,結局は,その専門家の判定による外はない。(特許業務法人共生国際特許事業所所長)
2017/07/05
『特許の哲学』其の15
発明に関する技術的思想とは
発明は無形の思想であり,物品の外形ではない。発明は,技術に関する人の知能的所産物である。発明は同一の効果を繰り出し,繰り返し,繰り返し生ずる技術的所産物である点に価値があるのであり,物理的,化学的の原理・原則に反するものは発明ではない。
しかし,発明者が物理的・化学的な原理・原則を知っていたかどうかは問題ではない。技術に関する人の知能的所産物である思想が,物理的・化学的な原理・原則に適合すればよい。
発明は,技術的効果を伴う必要があり,偶然一度効果を生じても,繰り返して同一の効果を生じないものは発明ではない。しかし,複雑,精巧な技術的思想である必要はない。
簡単なものでも,進歩性があるものは,発明を構成する。発明は技術に現れた芸術であり,技術に関する人の知能的所産である点が著作・美術(絵画,彫刻等)とは異なる点である。
従って,個人の熟練によって到達しうる技能や情報の単なる提示は発明とはならない。
2017/06/01
『特許の哲学』 其の14
「自然法則」を利用した発明とは
「自然法則」とは,自然現象の関係が,実証・帰納された規律をいうのであって,観念されただけでは法則ではない。これが,探求・実証・帰納され,組織的系統となって,初めて法則ということができるのである。
自然現象とは,自然に生起される状態,自然力とは,自然現象から生ずる作用である。引力,浮力,水力,熱力,風力,波力等はいずれも自然力であり,太陽熱,地熱,光,音,気圧,抵抗,風,雲,雨,雷,波,地震,噴火,電波,磁気,X線等は,いずれも自然現象であり,これらの自然現象を支配する法則が「自然法則」である。
従って,特許法上の発明は,自然法則を利用したものでなければならないから,自然法則自体(万有引力の法則等),人為的な取決(ゲームのルールそれ自体,数学上の公式等),また,自然法則に反する手段(永久機関等)に係るものや,課題を解決するための技術的手段が明らかに実現不可能なものは,発明に該当しないこととなる。
2017/06/01
『特許の哲学』 其の13
発明と特許の
理論的確立について
誰でも特許庁から特許を取得することが出来るが、特許に値するかどうかは、その発明の長所によってではなく、明細書を書く腕によって決まるのである。
歴史が社会経済的に重要だと教えているのは、特許が特許権侵害訴訟の裁判で勝ち残れるかどうかということである。
明細書を書き上げる際には、裁判所の判決の記録における判例や企業の特許戦略についての幅広い知識が極めて重要になる。
発明と特許の問題については、特許要件、特許権、特許出願手続き等のいずれもが、専門的分野からそれぞれに、深い理論づけと体系化への努力をして、それら一つ一つ、詳細な検討が行われるべきである。
発明と特許で、一つの理論を展開することが、必然的に他の理論を採る場合にも、たとえ批判的な眼をもってするにせよ、他の理論も考究し、基本的・実体的思想に基づきて、自己の心泰する理論の展開を図ってこそ、正しい発明と特許の理論的確立を期待できると信ずるものである。
2017/05/08
『特許の哲学』 其の12
発明と特許の理論的確立について
誰でも特許庁から特許を取得することができるが,特許に値するかどうかは,その発明の長所によってではなく,明細書を書く腕によって決まるのである。
歴史が社会経済的に重要だと教えているのは,特許が,特許権侵害訴訟の裁判で勝ち残れるかどうかということである。明細書を書き上げる際には,裁判所の判決の記録における判例や企業の特許戦略についての幅広い知識が極めて重要になる。
発明と特許の問題については,特許要件,特許権,特許出願手続等のいずれもが,専門的分野からそれぞれに,深い理論づけと体系化への努力をし,それら一つ一つ,詳細な検討が行われるべきである。
発明と特許で一つの理論を展開することが,必然的に,他の理論を採る場合にも,たとえ批判的な眼をもってするにせよ,他の理論をも考究し,基本的・実体的思想に基づいて,自己の心奉する理論の展開を図ってこそ,正しい発明と特許の理論的確立を期待出来ると信ずるものである。