佐藤英昭の「特許の哲学」

2018/10/11
特許の哲学 其の25

1948(昭和23)年,新憲法の制定に伴う改正法の施行

日本の技術の目覚ましい進展は,第二次世界大戦(太平洋戦争)後である。アメリカから受けたトランジスタを始めとする革新技術の応用に,戦後の日本の技術が,生産技術の向上から出発した。
新憲法の制定に伴う法律制度の改正が,1948年法律第172号を以って行われた。
新憲法の解釈として,行政庁を,事実審についても,最終審とすることが不当であるための改正が行われた。従来,抗告審判の審決の法令違反を理由とする場合のみ,大審院に出訴することが認められていた。事実審についても,特許庁の最終審は不当であるから,抗告審判の審決の決定に対する訴えを,東京高等裁判所を専属裁判所と定められた。
新憲法の軍備廃止に伴い,軍事上の処分の規定,秘密特許制度が廃止された。「インフレ」に起因する特許料等の引き上げが行われ,終戦後の法律制度の改正に伴い,「勅令」を「政令」,「帝国内」を「国内」等と改められ,官庁の名称等も改正された。
2018/10/11
特許の哲学 其の24

1904(明治37)年 工業所有権保護協会設立
 
1902(明治35)年1月,日英同盟成立。日清戦争,三国干渉,北清事変,1904年2月〜1905年9月の日露戦争を経て,国民の間に発明の重要性が認識され,1904年には,現在の一般社団法人発明協会の前身である工業所有権保護協会が設立された。
特許法も1909年に一部改正された。この法律では,先発明主義と先願主義を併用し,発明の新規性の規定を明確化,勤務発明・軍事上の秘密特許等の制を設け,特許の無効審判の請求主体を利害関係人に制限し,審査官も公益の代表者として,請求し得ることとした。
・1908年 池田菊苗 グルタミン酸ソーダを主成分とする調味料製造法 特許  
登録
・1911年 野口英世 梅毒スピロヘータの純粋培養
・1913年 西尾正左衛門 亀の子たわし 特許登録
・1914年 北里研究所設立
我が国の産業発達は,明治の終わり,大正の初期にかけて著しきものがあり,産業の基幹である工業所有権制度の改正が必要となった。
2018/10/11
特許の哲学 其の23

1899(明治32)年,工業所有権保護同盟条約に加入
 
1889年2月1日から特許及び意匠・商標条例が施行され,これらの条例施行のために特許局が新設された。
当時の出来事に,1889年2月11日 大日本帝国憲法・皇室典範発布,1889年 北里柴三郎 破傷風血清療法発見,1890年 豊田佐吉 木製人力式織機特許登録,1892年 奥井先蔵 乾電池特許登録,1894年 御大本幸吉 真珠質素被着法特許登録,1897年 志賀潔 赤痢菌発見,などがあった。
1899年に至り,わが国が工業所有権保護同盟条約に加入した影響を受け,近代的・国際的に進歩した特許法が施行された。この法律では,発明者のみならず承継人にも特許を受ける権利を認め,方法の発明に対する特許を明定,方法により製作した物にも特許権の効力が及ぶこととした。また,博覧会出品物に対する保護規定や公益・軍事上必要な発明に対する制限規定を設け,在外者に代理人の選任を強制,条約による優先権主張の制度を採用した。
2018/03/20
『特許の哲学』 其の22

1889(明治22)年2月1日特許条例施行
 
特許所長高橋是清は1885年11月,大政官の命令を受け,商標及び発明の保護の調査のため,欧米に出張した。「アメリカ」「イギリス」「フランス」「ドイツ」に於ける制度を調査し,翌1886年11月帰朝した。
この調査の結果,特許条例が起案され,1888年12月特許条例(45箇条)・1889年1月特許条例施行細則(54箇条)が公布され,1889年2月1日から施行された(2月11日の憲法発布に先立つこと10日)。同時に意匠条例及び商標条例も公布・施行され,これらの条例施行のために特許局が新設された。
特許条例の特色は,先発明主義が確立され,審査官による審査制・査定不服に対する審査官による審判制・審判官による特許権の範囲確認の制等が採用されたことであり,「フランス」の特許法に倣った専売特許条例を受け継ぎ,「イギリス」及び「ドイツ」の特許法を参考に,主として「アメリカ」の特許制度を採用したものであった。(特許業務法人共生国際特許事業所所長)
2018/01/31
特許の哲学 その21

1885年(明治18年)4月18日専売特許条例公布

1885年4月18日太政官布告第7号を以って,新たに専売特許条例が公布された。この条例は,特許制度の恩人,高橋是清の起案で,28箇条から成り,1872年3月29日に施行中止となった専売略規則に比べて詳細な規定を設けた。
同氏はこの条例公布の二日後(4月20日),専売特許所長に任命され,その施行の責任者となった。
この条例第1条には「有益ナル事物ヲ発明シテ之ヲ専売セント欲スル者ハ農商務卿ニ願出其特許ヲ受クヘシ農商務卿ハ其専売ヲ特許スヘキモノト認ムルトキハ専売特許証ヲ下付スヘシ」と規定し,出願前公知・公用及び医薬の発明には特許を与えないこと,特許権の年限を一律に15年,さらに,追加専売特許・強制実施・専売特許の無効及び失権等の制を採用,特許権の侵害罪を親告罪として,没収品を被害者に与える旨を規定。附則において,本条例公布前の免許を有効のものとした。 
当時の出来事(1885年12月内閣制度創設)。(特許業務法人共生国際特許事業所所長)
2018/01/31
特許の哲学 その20

我が国の技術と特許

 わが国では、徳川幕府の鎖国政策の下、新規なこと自体、支配体制に対する反逆とみなされていた。その政策の実例が、享保6年の新規御法度という触れ書であり、そこには「一 御服物、諸道具、書物は申すに及ばず、諸商売もの、菓子類にても、新規に巧出し候事自今以後堅く停止たり、若し拠なき仔細これある者は役所へ提出、ゆるしを受け仕出す可き事」と記してある。
 1870年に電信機、蒸気機の製造が政府で建議され、発明の重要性が認識され、1871年4月7日、太政官布告第175号を以って発布された専売略規則が発明特許に関する最初の法規である。
 明治の初め、他の産業保護に関する規則に先立ち、発明特許に関する規則を発令した事、また、発明のみでなく、在り来たりの物でも新工夫をなし、世用の便を為すものには官許を与えること(後年の実用新案)についても考慮したことは、明治維新に際し、当局者の見識が如何に優れていたかを示すものである。(特許業務法人共生国際特許事業所所長)
2017/10/30
特許の哲学 其の19

物の発明と方法の発明 
  
物又は方法が発明であるというのではない。技術的思想の創作である発明が,物又は方法によって表現されるのである。物の発明,方法の発明という用語は,正確な用語ではない。
物の発明は,技術的思想の創作が,物の外形(形象,外観,内部構造)に現れ,その物の使用価値が増大された場合に観念され,方法の発明は,技術的思想の創作が,方法に現れ,その方法の使用価値,又はその方法によって生産した物の使用価値が増大された場合に観念されるものである。
方法の発明には,物を生産する方法の発明と然らざる方法の発明がある。
化学的方法,織り方,編み方等の発明は前者に属し,通信方法,測定方法,物の性質の探求方法等の発明は,後者に属する。
特許法の運用に当たって,方式の発明という文字がよく用いられる。これは,方法の発明と,その方法の発明の実施に直接使用する機械,器具,装置その他の物の発明との総合又は結合の場合に用いられる文字である
2017/10/02
『特許の哲学』 其の18

発明の有用性
 
特許を受けることができる発明は,有用なものでなければならない。
有用とは,実用・有益の意味で,必要というよりも狭き意味である。今日の極度に発展した産業の発達において,人類の生活に直接関係ある有用な技術的工夫でなければ,特許法は厚く保護しない。
一方,人の美的感覚に作用し,装飾的価値のみ有する技術的工夫は,意匠として意匠法の保護を受けることができるが,特許法の保護を受けることはできない。
しかし,一つの物の技術的工夫が,発明として特許法の保護を受けることができるとともに,意匠として意匠法の保護を受けることができる場合があり得ることを忘れてはならない。
発明は,技術的思想の創作であり,技術的所産物であるけれども,発見は人に知られずして従来からあったものを見出すことであり,技術的所産物ではない。発見を見出すに技術的工夫を必要とした場合でも,それは発見の手段に過ぎない。発明と発見とは,その性質を異にする。
2017/08/31
『特許の哲学』 其の17

発明の視点
 
発明は,現在から未来に視点を向ける創作である。
ある時代においては発明であったものも,次の時代には発明と認められなくなるものである。ある発明の改良又は拡張も,技術程度を超えたものは発明を構成する。単なる材料の置換,単なる設計の変更は,発明を構成しない。ある発明に多少の変更を加え,同一の効果を生ずるに過ぎないものも発明ではない。構成分子の変更,構造の変形に,現在程度を超えた技術を要し,又変更,変形によって特殊の効果を生ずる場合には発明が存するのである。専門技術家が,容易に思考し,推考し得るものは,発明ではない。結合は発明を構成するけれども,総合は発明を構成しない。均等物の置換も発明を構成しない。
また,高度の工夫でなければ,特許法が保護する発明とは認めがたいのである。産業の発達に寄与することを目的とし,国力の発展の基本である特許法としては,高度でない発明は特許法で重く保護する必要がないのである。
2017/07/28
『特許の哲学】その16

発明は技術的思想の創作である 
 
創作とは,初めて作られ,工夫されることである。発明の新規性は発明の本質,発明の要素であり,発明の特許要件ではない。発明が新規な工夫であることを要するのは発明の要素である。新規とは,従来なかったことをいうのである。新規でない技術的思想は発明ではない。
従って,発明者が意識して何らの技術的思想を案出していない天然物(例:鉱石),自然現象等の単なる発見は発明に該当しない。しかし,天然物から人為的に単離した化学物質,微生物などは創作したものであり,発明に該当する。
また,発明は,進歩した技術的思想でなければならない。現在程度の技術によって,容易に思考され,推考されるにすぎないものは,発明を構成しない。発明には進歩性を必要とする。
ある時代においては発明であったものも,次の時代には発明と認められなくなるものである。発明の進歩性有無の判定は困難なことではあるが,結局は,その専門家の判定による外はない。(特許業務法人共生国際特許事業所所長)
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