佐藤英昭の「特許の哲学」

2024/04/01
特許の哲学 其の93

商標コンセント制度の導入

商標法では、他人の登録商標又はこれに類似する場合には、商標登録を受けることができない旨が規定されている(商標法第4条第1項第11号)。  

諸外国において、先行登録商標と同 一又は類似する商標であっても、先行登録商標権者の同意(コンセント)があれば後行の商標の併存登録を認める「コンセント制度」が導入されているが、日本においては、単に当事者間で合意がなされただけでは需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれが排除できない等の理由から、導入が見送られてきた。  

しかしながら、中小企業等による知的財産を活用した新規事業でのブランド選択の幅を広げる必要性や、国際的な制度調和の観点から、コンセント制度の導入ニーズが高まっていた。  

そこで、不正競争防止法等の一部を改正する法律により令和6年4月1日にコンセント制度が導入・施行されることとなった。本改正により、先行登録商標権者の承諾を得ており、先行登録商標と出願商標との間で混同を生ずるおそれがないものについては、登録が認められることとなる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2024/02/26
特許の哲学 其の 88

他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和

現在の商標法では、商標登録出願に係る商標の構成中に他人の氏名を含むものは、当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることができない旨を規定している(商標法第4条第1項第8号、以下「同号」という)。

 そのため、出願に係る商標や他人の氏名の知名度等にかかわらず、「他人の氏名」を含む商標は、同姓同名の他人全員の承諾が得られなければ商標登録を受けることができなかった。

 しかしながら、新興のブランドのみならず、広く一般に知られたブランドまで同姓同名の他人が存在すれば一律に出願を拒絶せざるを得ないことから、従来の制度に対して、創業者やデザイナー等の氏名をブランド名に用いることの多いファッション業界を中心に、同号の要件緩和の要望があった。

 2024年4月1日に商標法が改正され、同号における「他人の氏名」に一定の知名度の要件と、出願人側の事情を考慮する要件を課し、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和する。
2024/01/25
特許の哲学 其の87

特許出願非公開制度 2024年5月1日施行

特許制度は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としている。このため、特許権の付与とともに、特許出願された発明を一律に公開することで更なる技術の改良の促進や重複する研究開発の排除等を図っている。

しかしながら、日本の特許制度は、特許出願がされれば「安全保障上拡散すべきでない発明」であっても、1年6か月経過後には出願内容が公開される制度となっている。この点、諸外国の制度ではこのような発明に関する特許出願を非公開とする制度が設けられているのが一般的である。

このため、日本においても一定の場合には出願公開等の手続を留保し、拡散防止措置をとることとする「特許出願非公開制度」が設けられ、2024年5月1日に施行される。

これにより、特許手続を通じた機微な技術の公開や手続留保中の情報流出を防止することが可能になるとともに、これまで安全保障上の観点から特許出願を諦めざるを得なかった発明者に特許法上の権利を受ける途を開くことが期待される。
2023/09/01
特許の哲学 其の86

知財収入に税優遇案

経済産業省は、知的財産から生じる 収入に対し、優遇税率を適用する「イノベーションボックス税制」の導入を目指す。知的財産から生じるライセンス料などの所得を優遇することで、国内での研究開発投資を促す狙いがある。

対象となる所得は、ライセンス料や特許などの知的財産の譲渡、知財を組み込んだ製品の売却益で、条件を満たした所得に優遇税率をかける。 2023年末にかけて対象となる所得の 範囲や税率、分野などを絞り込む。
現在、日本では「研究開発税制」と呼ばれる法人税控除の仕組みがあるが、もともと製造業を想定しており、知財関連の収入には使いづらいとされる。企業が開発を開始した時点での支援であり、実際の成果に結びつくとは言えなかった。

こうした課題を解決するため、開発が実を結んだ後の支援として「イノベーションボックス税制」の導入を推し進める。経団連が2013年から税制改正を要望しているが、開発初期の支援が縮小されるという懸念からこれまで検討が進まなかった。税優遇が導入されれば、企業の競争力が高まることが期待できる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/06/26
特許の哲学 其の84

AI創作物の知的財産権

 近年、「チャットGPT」に代表されるAI活用が話題だが、AIが生成した創作物に法律の保護(著作権・特許権等)が与えらえるのか否かという点が問題となっている。
 AIには思想や感情がないとの観点からいえば、AI創作物は、現行の著作権法にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」には該当せず「著作物」とはいえない。しかし、政府の「知的財産推進計画2019」では、AI利用者が自分の意図するものが生成されるまで何度も試行錯誤したり、AI創作物に加筆・修正を加えるような創作的寄与をしていれば、著作物性が認められ得るとしている。
 同じく、AI創作物は、現行の特許法にいう「技術的思想の創作」にも該当しないため「発明」に該当せず、特許権は与えられない。特許法上の「発明者」は、自然人に限られるので、願書の発明者の欄に、現行法では、法人名やAIプログラム名を記載した場合には補正指令がなされ、補正されなければ出願が却下される。
 AI技術の急速な進歩に、法の整備が追い付いていない部分もあり、今後の動向を注視したい。(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/06/01
特許の哲学 其の83

AI創作物の知的財産権

近年、「チャットGPT」に代表されるAI活用が話題だが、AIが生成した創作物に法律の保護(著作権・特許権等)が与えらえるのか否かという点が問題となっている。
 AIには思想や感情がないとの観点からいえば、AI創作物は、現行の著作権法にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」には該当せず 「著作物」とはいえない。しかし、政府の「知的財産推進計画2019」では、AI利用者が自分の意図するものが生成されるまで何度も試行錯誤したり、AI創作物に加筆・修正を加えるような創作的寄与をしていれば、著作物性が認められ得るとしている。
 同じく、AI創作物は、現行の特許法にいう「技術的思想の創作」にも該当しないため「発明」に該当せず、特許権は与えられない。特許法上の「発明者」は、自然人に限られるので、願書の発明者の欄に、現行法では、法人名やAIプログラム名を記載した場合には補正指令がなされ、補正されなければ出願が却下される。
 AI技術の急速な進歩に、法の整備が追い付いていない部分もあり、今後の動向を注視したい。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/05/01
『特許の哲学』其の82

国際特許出願件数、 中国が4年連続世界1位

世界知的所有権機関(WIPO)は、 特許協力条約(PCT)に基づく2022年の国際特許出願件数を発表した。  
それによると、2022年はPCT国 際特許出願件数が過去最高を更新したと明らかにした。国際特許出願件数 の増加率は+0、3%と微増ながらも、 過去最高の278,100件となった。
国別では、中国の出願件数が70,0 15件となり、初めて7万件を突破し、4年連続で世界1位となった。上位5ヶ国は、前年と変わらず下表の通りとなった。  
企業別では、中国通信機器大手の 華為技術(Huawei)が7,689件と 6年連続で首位の座を守り、中国企業の出願件数増加が目立つ結果となった。
日本企業では三菱電機が2, 320件で4位となり、2014年以降9年連続で上位5位以内を維持している。
2022年 前年比
1位:中国 70,015 (+0.6%)
2位:米国 59,056 (-0.6%)
3位:日本 50,345 (+0.14%)
4位:韓国 22,012 (+6.2%)
5位:ドイツ17,530 (+1.5%)
2023/03/06
特許の哲学 其の80

メタバースでの模倣品対策

 政府は、インターネット上の仮想空間 「メタバース」で販売されるデジタルの 模倣品も禁止することを目的として「不 正競争防止法改正案」を通常国会に 提出した。  メタバース市場は近年急速に拡大し、 企業の参入が相次ぐ。画面上で操る自身 の分身(アバター)が身につける衣服や アートなどの取引も始まっているが、アバ ターに着せる衣服や小物などで有名ブ ランドのデザインと酷似した模倣品が製 造・販売される恐れが指摘されている。  このメタバースは現実の空間とは異な り、不正競争防止法の対象外。  現行法では、模倣品を「譲渡し、貸し 渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示 し、輸出し、又は輸入する行為」を規制し ているが、ここにはネットワークを通じ、 デジタルデータという形で商品を販売等 する行為が明確に含まれていない。  そのため、メタバース上で模倣品が出 回っても、民事上の法的措置を取れな かった。  今回、不正競争防止法の改正で「商 品形態の模倣行為」の対象をデジタル 空間上にも広げ、差し止め請求権などを 行使できるようにする。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/02/01
■ 特許の哲学 其の80
著作権侵害の賠償額  上乗せへ法改正

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、漫画やアニメなどが違法にアップロードされた「海賊版サイト」へのアクセスが急増し、著作権侵害の被害が深刻化している。

 文化審議会の小委員会は、「海賊版サイト」の著作権侵害に対する損害賠償請求の賠償額算定方法を見直し、増額できるようにすべきとする報告書素案をまとめた。

 素案では、現在認められていない著作権者の販売能力を超える分について、「ライセンス料相当額」として損害額に上乗せできるよう算定方法を見直す。ライセンス料相当額自体についても、侵害を考慮し増額できるようにする。

また、インターネット上で流通する権利者不明の著作物などの利用促進に向け、 新制度の創設も明記した。利用可否や条件など著作権者の意思が確認できないケースに対応するため「窓口組織」を新設。使用料相当額を支払えば、窓口組織が公告を行い、著作権者から申し出があるまで著作物を利用できるようにする。これにより、著作権者等を探索するコストが減少し、権利処理が容易になる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/12/23
■ 特許の哲学 No 79

「ファスト映画」で損害賠償5億円

 2022年11月17日、東京地方裁判所は「ファスト映画」をYouTubeに投稿した2人対し、著作権侵害による損害賠償保証金5億円の支払いを命じる判決を言い渡した。

 「ファスト映画」とは、無断で映画を10〜15分程度に編集した動画。最近では、視聴回数を増やして広告収入を稼ぐために、字幕やナレーションといった元の映画にはない表現が追加され、映画の内容全体を分かりやすく説明する工夫がされている。

コロナ禍による需要の増加により、2020年頃からYouTubeへの投稿が増加。ファスト映画専門チャンネルが乱立するなど、動画が多数作成・公開されてきた。

判決によると、被告は映画「シン・ゴジラ」や「おくりびと」など54作品を無断で編集し、YouTubeに投稿。動画は計1,000万回以上再生され、700万円程度の広告収益を得ていた。

 原告側は、被害総額を約20億円と算出し、その一部の計5億円の支払いを求めていたが、その請求通り全額の支払いを命ずる判決となった。ファスト映画を巡る賠償を命じた判決は今回が初めてとなった。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
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