佐藤英昭の「特許の哲学」

2021/12/01
特許の哲学 其の66

ハッシュタグを用いた 「#他社商品名」は商標権侵害

インターネット上では、ハッシュマーク「#」がついたキーワード、いわゆる 「ハッシュタグ」が多く使用されている。 この「ハッシュタグ」を活用することで、その記号つきの発言が一覧できるよう になり同じキーワードでの投稿を簡単に検索できると言ったメリットもある。

この「ハッシュタグ」を巡って商標権 侵害が争われた。2021年9月27 日、大阪地方裁判所はフリマアプリ「メルカリ」などの商品ページで、ハッシュタグ「#他社の商品名」を用いて類似出品物を宣伝する行為については、商標権侵害と認め、表示の差し止めを命じる判決を言い渡した。  
本判決は、他人の商品名を表示した上で、自作の商品を反復継続して販売していたという事案である。訴えられたのは、フリマアプリに1000件以上の手作り商品を出品していた個人で、商品に原告のブランド名のハッシュタグをつけていた。メルカリは「出品した商品と関係のないタグ付けは、商品削除や利用制限の対象となる場合がある」と注意喚起している。(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/10/31
特許の哲学 其の65

中国・台湾がTPPに加入申請

中国が2021年9月16日に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)へ の加盟を申請し、その1週間後の23日 に台湾も加盟申請を発表した。中国と台湾が相次いでTPP加入を申請したことを受け、参加11カ国の判断が注目されている。
 しかしながら、中国の加盟に向けた課題は多い。中国がTPPに加入するには、知的財産権の保護、国有企業の優遇制限、政府調達の透明性確保など、TPP協定が定める厳格なルールを順守することが前提となる。
 特に障害となり得るのがデータを巡るルールだ。TPPはデータ流通の透明性や公平性を確保する原則を定めている。これは既存の多くのFTAが盛り込めなかったもので、専門家の間では 「TPPスタンダード」と呼ばれている。
中国は、企業や個人による国境を越えた自由なデータの流通には否定的だ。 データ安全法(データセキュリティー法)などで統制を強化する中国がルールを守れるか疑問の声が上がる。中国が加入するには、多くの分野で中国国内の制度改革を迫られるのが実態だ。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/10/01
特許の哲学 其の64

知的財産取引に関するガイドライン公表

中小企業庁では「知的財産取引に関するガイドライン」を作成した。これは、大企業と中小企業間における知的財産に係る取引について、問題事例を防止するとともに、知的財産取引における企業間の共存共栄を推進する観点で策定されたものである。

ガイドラインの主なポイント:
@
契約締結前:

相手方の秘密情報を相手方の事前の承諾なく、取得又は開示を強要しない

相手方の意思に反して、秘密保持契約締結無しに相手方の秘密を知り得る行為をしない。
A
試作品製造・共同開発等:

無償の技術指導・試作品製造等の強制をしない

承諾がない知的財産やノウハウ等の利用をしない

共同開発の成果は技術やアイディアの貢献度によって決められることが原則、これと異なる場合は相当の対価を支払う、


B
特許出願・知的財産権の無償譲渡・無償許諾:

取引と直接関係のない、又は独自に開発した成果について出願等に干渉しない
相手方に帰属する知的財産権について、無償譲渡の強要や自社への単独帰属を強要しない。(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/09/01
■ 特許の哲学 其の63

特許無効審判における 通常実施権者の承諾を不要に

 特許法は、特許権者自らが実施をしなくとも、他の者に実施の権原を与える制度として専用実施権(特許法第77 条)及び通常実施権(同法第78条)の制度を用意し、特許法の目的である発明の利用の促進を図っている。
 現在、特許権者が訂正請求(願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面の訂正の請求)を行う際、通常実施権者がいる場合はその全員から 承諾を要する。
 しかしながら、1つの特許権について数百を超える通常実施権者が存在するケースもあり、このような場合には全ての通常実施権者から承諾を得ることは容易ではない。
 このことから、政府は、訂正請求の際に通常実施権者の承諾を不要とする特許法改正案を閣議決定した。この改正により、今まで煩雑であった通常実施権者全員からの承諾を得る必要がなくなり、より簡便に手続が可能となる。
 今回の改正案では、通常実施権者の承諾は不要としたが、専用実施権者がいる場合には専用実施権者からの承諾を得なければ訂正請求を行えない規定は残されている。  
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/07/30
「特許の哲学」 其の62

日本、自動運転の特許出願件数で 世界一位

 特許庁は、今後の市場確定が見込まれる「機械翻訳」「スマート農業」「自動運転」等の技術テーマについて、特許出願状況の調査結果をまとめた。
 この調査は、企業・大学・研究機関などが開発戦略や知的戦略を策定するために世界中の特許情報を分析したものであり、これによると「自動運転」関連技術の出願件数(2014〜2018年)の合計は53,394件となり、国別では日本の20,008件が最も多く1位となった。その他の各国主要国の順位は以下の通り。

1位:日本(20,008件)
2位:アメリカ(11,311件)
3位:ドイツ(7,824件)
4位:韓国(5,359件)
5位:中国(4,965件)
6位:欧州 ※ドイツ除く(3,062件)
 この調査にて、「自動運転」の関連技術に関しては広範囲にわたり日本から多くの特許出願がなされていることが確認された。
 今後、自動運転の開発が活発化していくことで、あらゆる交通手段の統合・ 最適化が可能となり、より快適なサービスの提供が期待される。  
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/07/03
『特許の哲学』 其の61

特許法の改正案が成立

令和3年5月14日、特許法等の一部を改正する法律案が国会で成立した。
 新型コロナウイルスの感染拡大により、「非接触」の生活様式が浸透してきており、電子商取引の急伸に伴う模倣品の流入や、情報通信分野等における特許ライセンスの大規模化及び複雑化等、消費行動や企業活動も変化してきた。
 これらの生活様式及び経済活動の変化に対応した策を講じるとともに、知的財産制度を安定的に支える基盤を構築することが必要なことから、デジタル化、リモート・非接触など、以下の内容を柱とした改正となっている。
(1)
デジタル化等の手続の整備
 ウェブ会議システムの利用、窓口でのクレジットカード支払等を導入等
(2) デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し、増大する個人使用目的の模倣品輸入に対応し、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を商標権等の侵害として位置付ける等
(3)知的財産制度の基盤強化   
特許権侵害訴訟において、裁判所が広く第三者から意見を募集できる制度を導入等
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/07/03
■ 『特許の哲学』 其の60
■ 『特許の哲学』 其の60

国際特許出願件数、中国が2年連続世界1位

世界知的所有権機関(WIPO)は、特許協力条約(PCT)に基づく2020年の国際特許出願件数を発表した。

それによると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中にありながらも、2020年はPCT国際特許出願件数が過去最高に達したと明らかにした。
世界のGDPが3.5%減少する中、国際特許出願は4%増加し、過去最高の275,900件となった。

国別では、中国の出願件数が68,720件となり、昨年に続き米国(59,230件)を抜いて世界1位となった。

技術分野別では、コンピュータ技術が24,332件で全体の9.2%を占め最多となった。このほか、デジタルコミュニケーション(22,068件)、医療技術(17,493件)、電気機械(17,363件)が上位になった。(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/04/30
■ 特許の哲学 其の59

特許庁関係手続における 押印の見直しについて

日本の規制改革の一環として行われている「書類への認印の押印廃止」に伴い、2020年末に特許関係の法令も改正されることとなった。
 日本では、個人及び法人がそれぞれ行政庁に印鑑を登録する制度があり、 その登録した印鑑を「実印」といい(登録証明書が発行される)、それ以外の印鑑を「認印」というが、これまでの特許行政においては基本的には「認印」 の押印で事足りていた。
 ところが、今般の「書類への認印の押印廃止」に伴い、特許庁では手続による結果の重大性により「実印の押印+印 鑑登録証明書」を要する手続きと、「印鑑の押印不要」の手続きとに分けられた。それにより、多くの手続きにおいては「認印の押印廃止」されたが、これまで不要であった「実印の押印+印鑑登録証明書」を要する手続きが新たに規定された(権利移転等)。
 現在のところ、印鑑証明書の提出は 最初の1回のみで良い。なお、日本国において印鑑登録できない外国人と外国法人については、従前同様に署名による手続きが可能である。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/03/30
特許の哲学 其の58

無形資産を一括担保に融資実施

金融庁では、中小企業が持つ知的財産権・独自技術・ノウハウ等の無形資産を含む「事業全体の付加価値」を一括担保にできる新たな融資の仕組みを構 築する。
 これまでも特許権などの無形資産に個別に担保権を設定することはできたが、価値判断が難しい等の問題で浸透しておらず、現状では「不動産」等に偏っ た融資がされている。将来性がある企業であっても担保として差し入れる不動産がないと、コロナ禍で一時的に業績が悪化した場合事業の継続が困難になる恐れがある。
 この新たな融資の仕組みにより、コロナ禍の影響を受けた中小企業に対して資金供給の手段を広げる狙いもある。
 金融機関にとっても「事業全体の付加価値」を担保にできれば、融資先を再生させることが可能となり、自らの利益となるだけでなく、不動産を保有していなくとも強力な特許権・ノウハウ等を保有する中小企業の事業発展につながることが期待される。  
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2021/03/01
特許の哲学 其の57



口頭審理のオンライン化

特許庁では、新型コロナウイルス感染症拡大やテレワーク普及の影響を受け、 口頭審理をオンライン化する方針だ。





 現行法では、次のように定められている(特許法第145条第1項、第203条)。
@
無効審判等の審理は原則「口頭審理」により行われる
A
A期日に審判長が定めた場所へ出頭する必要があ








B
B正当な理由がないのに出頭しないときは、10万円以下の過料に処される。しかしながら、口頭審理の開催によって都道府県を越えての人の移動及び人と人との接触が生じ、感染症拡大につながる懸念がある。この懸念から、緊急事態宣言下では口頭審理の開催が見送られ、宣言解除後も必要な事件に限り感染拡大予防策を講じた上で開催している。
 口頭審理は、書面では十分に言い尽くせない当事者の主張を、審判長の審尋によって引き出すことにより、争点及び技術内容を正確に把握することにも役立つ。
 この口頭審理をオンライン化することで出頭の必要がなくなり、感染症拡大への対策になるだけでなく、当事者への負担が大幅に軽減されることが期待される。
  (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
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