佐藤英昭の「特許の哲学」

2022/12/01
■ 特許の哲学 No,78

特許訴訟  第三者意見募集制度について

 近年、複数の業界が関係するIoT関 連技術が目覚ましい発展をみせ、このような状況においては、裁判所の判断が、当事者のみならず当該特許権等に関連する多数の業界に対して事実上の大きな影響を及ぼす可能性があることから、裁判所が第三者の事業実態等も踏まえて判断することが望ましい場合がある。

 また、事案によっては、国際的な観点から捉えるべき争点が含まれることがあり、広く海外からも意見を集めることが望ましい。

 第三者意見募集制度は、上記のような事案について、裁判所が適正な判断を示すための資料を得るために、広く一 般の第三者から意見を集めることを可能としたものである。

 裁判所が、特許権侵害訴訟等において、当事者の申立てにより、必要があると認めるときに、他の当事者の意見を聴いて、広く一般に対し、当該事件に関する特許法の適用その他の必要な事項について、意見を記載した書面の提出を求めることができる。集まった意見は、 原告側と被告側とが内容を確認した上で、裁判の証拠として活用する。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)

2022/10/28
特許の哲学 其の77

特許・商標等の出願件数が増加

 特許庁は、知的財産制度に関心を持ち 理解を深めてもらうことを目的として、知的財産をめぐる国内外の動向と特許庁の取組について「特許行政年次報告書2022年版」として取りまとめ公表した。  
2022年版の報告書からは、2021年の知財出願件数や動向を知ることができる。  
今回のポイントは、以下の通り。特許庁では、商標審査に関わる調査などで人工知能を導入したり、外部委託することで効率化を進めてきた。その結果、 以下Bに記載の通り審査の短縮化が実現されている。

@
前年度よりも出願件数が増加
法域/年 2020年 2021年
特許 288,472 289,200
意匠 28,812  29,222
商標 163,148 164,537

A
外国人による日本への特許出願件数 は、中国のみではなく米国・欧州からの日本への出願件数が前年より増加
B
B商標審査の一次審査通知の平均期間が短縮(2020年:10ヶ月、2021年: 8ヶ月)
C商標の登録件数が大幅に増加 (2020年:135,313件、2021年: 174,098件)
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)


A外国人による日本への特許出願件数 は、中国のみではなく米国・欧州からの 日本への出願件数が前年より増加 B商標審査の一次審査通知の平均期 間が短縮(2020年:10ヶ月、2021年: 8ヶ月) C商標の登録件数が大幅に増加 (2020年:135,313件、2021年: 174,098件)
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/10/03
特許の哲学 其の76
「ビジネス・コート」開設

 企業の海外進出により国際的で複雑な法的争いが増えるなか、ビジネス関係の訴訟を専門的に扱う裁判所「ビジネス・コート」が東京・中目黒に誕生する。  
現在の霞が関の庁舎から、企業関係の訴訟や手続きを扱う知的財産高裁や東京地裁の東京地裁の「知財部」、会社更生や株主代表訴訟などを扱う「商事部」、民事再生や破産手続きを担当する「破産再生部」がまとめて移転する。  
テレビ会議システムを整備し、課題である迅速な審理の実現を目指す。新庁舎には最新の映像音響機器を設置。テレビ会議システムで遠隔地の裁判所などと結び、代理人弁護士らが上京しなくても打ち合わせをできるようにすることで、争点整理や審理のスピードアップを図る。  
知的財産や経済紛争に詳しい裁判官や調査官に加え、弁理士などの専門委員が1か所に集まることで、より専門性の高い審理や迅速な解決につながることが期待される。  
「ビジネス・コート」は2022年10月 11日から知財高裁、同月17日から東京地裁の商事部と知的財産権部、同月24 日から倒産部が業務を始める予定。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)

2022/09/01
特許の哲学 其の75

Amazonと財務省 
模倣品対策で連携強化

 Amazonジャパンは、知的財産侵害物品等の国内流入防止を目的に、財務省関税局と模倣品等の水際取締りに関する協力関係の強化についての覚書を締結したことを発表。財務省関税局がEC事業者と覚書を締結するのは、今回が初となる。

 財務省関税局長は「インターネットの普及と国境をまたいだ電子商取引の急速な進展に伴い、模倣品等の流通が大きな問題となる中、Amazonジャパンと知的財産侵害物品等の水際取締りに係る協力に関する覚書を締結したことで、水際取締りのさらなる強化が期待される」と述べた。  

今回の覚書の締結により、両者は模倣品などの国内流入防止のための協力関係の強化方法について共同で検討し、税関が差し止めた模倣品や関連する模倣品業者に関する情報交換を進めていくとしている。  

これにより、水際での模倣品業者の特定や悪質業者の取締りをより効率的に行い、模倣品などの国内流入防止のより一層の強化が期待できるとしている。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/07/31
特許の哲学 其の74

知的財産推進計画2022決定

2022年6月3日、首相官邸において 知的財産戦略本部が開催され、「知的 財産推進計画2022」を決定した。重点 8施策として、以下が挙げられている。


スタートアップ・大学の知財エコシス テムの強化

知財・無形資産の投資・活用促進メカ ニズムの強化

標準の戦略的活用の推進

デジタル社会の実現に向けたデータ 流通・利活用環境の整備

デジタル時代のコンテンツ戦略 ・中小企業/地方(地域)/農林水産業分 野の知財活用強化

知財活用を支える制度・運用・人材基 盤の強化

アフターコロナを見据えたクールジャ パン(CJ)の再起動  



会合に出席した岸田首相は、デジタル時代に対応した著作権制度改革の必要性を強調。また、スタートアップが知財を事業化につなげ社会実装しやすい環境づくりに取り組む考えや、ブ ロックチェーンやメタバースなど、WEB3.0と呼ばれる技術の活用を推進し、仮想空間上のコンテンツの創作・流通・利用を後押しするため、新たな法的課題の把握や論点整理を官民一体でルール整備を進めることを表明した。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/06/30
特許の哲学 其の73

水素燃料電池の特許件数、 中国が世界の7割

二酸化炭素(CO2)を排出しない クリーンなエネルギーとして期待されている次世代エネルギー「水素」。この水素と酸素を化学反応させて水を作り、この過程で発生する電気や熱をエネルギーとして使う仕組みの「燃料電池」が注目されている。
 
この「燃料電池」の特許出願件数を世界知的所有権機関(WIPO)が発表した。これによると、2020年の世界の水素燃料電池の特許出願件数は10,523件で、過去最大の2019 年(11,291件)に次ぐ件数だった。
出願人の国籍別では、中国が7,26 1件で最も多く、全体の69%を占める。日本(1,186件)、ドイツ(646 件)、韓国(583件)、米国(403件) がそれに続く。2014年までは日本がトップを維持していたが、2015年以 降中国の独走状態が続く。

企業別では、トヨタ自動車(2,72 0件)が最大で、現代自動車(1,402 件)、ホンダ(1,191件)、ゼネラルモーターズ(697件)、フォルクスワー ゲングループ(671件)などが続く。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/06/01
特許の哲学 其の72

特許・商標・意匠出願件数が増加

特許庁は、2021年の統計情報及び政策の成果を掲載した「特許庁ステータスレポート2022」を発表。本レポートでは、知的財産制度を取り巻く現状や特許庁の取組等をいち早く発信している。 (1)ウィズコロナ・ポストコロナ時代に対応したデジタル化:特許庁では、新型コロナウイルス感染症が拡大する中においても審査・審判手続を継続するとともに、デジタル化等の社会構造の変化に対応するため、ITを活用したコミュニケーションを積極的に実施。特許審査においては、2021年に実施された面接審査1,689件のうち、1423件をオンラインで実施した(昨年比40.2%増)。また、テレワーク中の審査官・審判官がユーザーに対して電話で連絡をする手段を整備した。(2)出願件数:2020年に比べ、2021年の特許・商標・意匠出願件数はいずれも増加した。・特許:289,200件(前年比:+728件)・商標:184,631件(前年比:+3,559件)・意匠:32,525件(前年比:+727件)(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/04/29
特許の哲学 其の71

マルチマルチクレームの制限

「マルチマルチクレーム」とは、マルチクレーム(2以上の請求項を択一的に引用する請求項)を引用するマルチクレームのことで、日米欧中韓の主要庁のうち、日本・欧州は認めているものの、日本から多くの出願がされている米国・中国・韓国においては制限されている。
(例)
・請求項1 Aを備える装置。

請求項2さらにBを備える請求項1 に記載の装置。

・請求項3さらにCを備える請求項1又 は2に記載の装置。(←マルチクレーム) ・請求項4 さらにDを備える請求項1 〜3のいずれか1項に記載の装置。 (←マルチマルチクレーム)  「マルチマルチクレーム」について は、一の請求項を把握するにあたって、 その請求項が引用する全ての各請求 項の記載を組み合わせて把握すること が必要であるなど、第三者による監視 や審査処理において過度な負担を生じさせる要因である。  

そこで、国際調和並びに審査負担及び第三者の監視負担の軽減の観点から、日本でも「マルチマルチクレーム」の制限を導入する。この制限は、省令改正の施行後(施行日:令和4年4月1 日)にする特許出願に適用される。
2022/03/30
特許の哲学 其の70

国際特許出願件数、 中国が3年連続世界1位

世界知的所有権機関(WIPO)は、特許協力条約(PCT)に基づく2021年の国際特許出願件数を発表した。  
それによると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中にありながらも、2021年はPCT国際特許出願件数が過去最高を更新したと明らかにした。  
国際特許出願件数の増加率は+0.9%と微増ながらも、過去最高の277,500件となった。  国別では、中国の出願件数が69,540件となり、3年連続で世界1位となった。  
企業別では、中国企業13社がトップ 50に入り、前年から1社増加。通信機器大手の華為技術(Huawei)は6,952件と5年連続で首位の座を守り、中国企業の出願件数増加が目立つ結果となった。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/03/01
特許の哲学 其の69

賊版対策で国際組織を創設

映画、アニメーション、マンガ等の海賊版被害がグローバル規模で問題となっている。しかしながら、国際連携が進んでいないことから、日米中韓等の主要国の著作権保護団体は、海賊版対策に取り組む国際組織「国際海賊 版対策機構/International Anti-Pi racy Organization(IAPO)」を2022 年4月に創設することを決定した。  
日本のコンテンツ海外流通促進機構(CODA)や米国のモーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)、韓国の韓国著作権保護院(KCOPA)、中国の中国版権協会、さらにASEAN各国が参加する予定。  
デジタル化・ネットワーク化の拡大や、コロナ禍による在宅需要の影響なども受け、日々海賊版が状況は深刻化 している。日本国内の海賊版による被害額は漫画だけで2021年1〜10月に 約8000億円に上る。  
IAPOは各国間でホットラインを設置し、海賊版問題の最新情報を共有 することで各国の海賊版対策の向上を目指すとしている。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
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