佐藤英昭の「特許の哲学」

2023/09/01
特許の哲学 其の86

知財収入に税優遇案

経済産業省は、知的財産から生じる 収入に対し、優遇税率を適用する「イノベーションボックス税制」の導入を目指す。知的財産から生じるライセンス料などの所得を優遇することで、国内での研究開発投資を促す狙いがある。

対象となる所得は、ライセンス料や特許などの知的財産の譲渡、知財を組み込んだ製品の売却益で、条件を満たした所得に優遇税率をかける。 2023年末にかけて対象となる所得の 範囲や税率、分野などを絞り込む。
現在、日本では「研究開発税制」と呼ばれる法人税控除の仕組みがあるが、もともと製造業を想定しており、知財関連の収入には使いづらいとされる。企業が開発を開始した時点での支援であり、実際の成果に結びつくとは言えなかった。

こうした課題を解決するため、開発が実を結んだ後の支援として「イノベーションボックス税制」の導入を推し進める。経団連が2013年から税制改正を要望しているが、開発初期の支援が縮小されるという懸念からこれまで検討が進まなかった。税優遇が導入されれば、企業の競争力が高まることが期待できる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/06/26
特許の哲学 其の84

AI創作物の知的財産権

 近年、「チャットGPT」に代表されるAI活用が話題だが、AIが生成した創作物に法律の保護(著作権・特許権等)が与えらえるのか否かという点が問題となっている。
 AIには思想や感情がないとの観点からいえば、AI創作物は、現行の著作権法にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」には該当せず「著作物」とはいえない。しかし、政府の「知的財産推進計画2019」では、AI利用者が自分の意図するものが生成されるまで何度も試行錯誤したり、AI創作物に加筆・修正を加えるような創作的寄与をしていれば、著作物性が認められ得るとしている。
 同じく、AI創作物は、現行の特許法にいう「技術的思想の創作」にも該当しないため「発明」に該当せず、特許権は与えられない。特許法上の「発明者」は、自然人に限られるので、願書の発明者の欄に、現行法では、法人名やAIプログラム名を記載した場合には補正指令がなされ、補正されなければ出願が却下される。
 AI技術の急速な進歩に、法の整備が追い付いていない部分もあり、今後の動向を注視したい。(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/06/01
特許の哲学 其の83

AI創作物の知的財産権

近年、「チャットGPT」に代表されるAI活用が話題だが、AIが生成した創作物に法律の保護(著作権・特許権等)が与えらえるのか否かという点が問題となっている。
 AIには思想や感情がないとの観点からいえば、AI創作物は、現行の著作権法にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」には該当せず 「著作物」とはいえない。しかし、政府の「知的財産推進計画2019」では、AI利用者が自分の意図するものが生成されるまで何度も試行錯誤したり、AI創作物に加筆・修正を加えるような創作的寄与をしていれば、著作物性が認められ得るとしている。
 同じく、AI創作物は、現行の特許法にいう「技術的思想の創作」にも該当しないため「発明」に該当せず、特許権は与えられない。特許法上の「発明者」は、自然人に限られるので、願書の発明者の欄に、現行法では、法人名やAIプログラム名を記載した場合には補正指令がなされ、補正されなければ出願が却下される。
 AI技術の急速な進歩に、法の整備が追い付いていない部分もあり、今後の動向を注視したい。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/05/01
『特許の哲学』其の82

国際特許出願件数、 中国が4年連続世界1位

世界知的所有権機関(WIPO)は、 特許協力条約(PCT)に基づく2022年の国際特許出願件数を発表した。  
それによると、2022年はPCT国 際特許出願件数が過去最高を更新したと明らかにした。国際特許出願件数 の増加率は+0、3%と微増ながらも、 過去最高の278,100件となった。
国別では、中国の出願件数が70,0 15件となり、初めて7万件を突破し、4年連続で世界1位となった。上位5ヶ国は、前年と変わらず下表の通りとなった。  
企業別では、中国通信機器大手の 華為技術(Huawei)が7,689件と 6年連続で首位の座を守り、中国企業の出願件数増加が目立つ結果となった。
日本企業では三菱電機が2, 320件で4位となり、2014年以降9年連続で上位5位以内を維持している。
2022年 前年比
1位:中国 70,015 (+0.6%)
2位:米国 59,056 (-0.6%)
3位:日本 50,345 (+0.14%)
4位:韓国 22,012 (+6.2%)
5位:ドイツ17,530 (+1.5%)
2023/03/06
特許の哲学 其の80

メタバースでの模倣品対策

 政府は、インターネット上の仮想空間 「メタバース」で販売されるデジタルの 模倣品も禁止することを目的として「不 正競争防止法改正案」を通常国会に 提出した。  メタバース市場は近年急速に拡大し、 企業の参入が相次ぐ。画面上で操る自身 の分身(アバター)が身につける衣服や アートなどの取引も始まっているが、アバ ターに着せる衣服や小物などで有名ブ ランドのデザインと酷似した模倣品が製 造・販売される恐れが指摘されている。  このメタバースは現実の空間とは異な り、不正競争防止法の対象外。  現行法では、模倣品を「譲渡し、貸し 渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示 し、輸出し、又は輸入する行為」を規制し ているが、ここにはネットワークを通じ、 デジタルデータという形で商品を販売等 する行為が明確に含まれていない。  そのため、メタバース上で模倣品が出 回っても、民事上の法的措置を取れな かった。  今回、不正競争防止法の改正で「商 品形態の模倣行為」の対象をデジタル 空間上にも広げ、差し止め請求権などを 行使できるようにする。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/02/01
■ 特許の哲学 其の80
著作権侵害の賠償額  上乗せへ法改正

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、漫画やアニメなどが違法にアップロードされた「海賊版サイト」へのアクセスが急増し、著作権侵害の被害が深刻化している。

 文化審議会の小委員会は、「海賊版サイト」の著作権侵害に対する損害賠償請求の賠償額算定方法を見直し、増額できるようにすべきとする報告書素案をまとめた。

 素案では、現在認められていない著作権者の販売能力を超える分について、「ライセンス料相当額」として損害額に上乗せできるよう算定方法を見直す。ライセンス料相当額自体についても、侵害を考慮し増額できるようにする。

また、インターネット上で流通する権利者不明の著作物などの利用促進に向け、 新制度の創設も明記した。利用可否や条件など著作権者の意思が確認できないケースに対応するため「窓口組織」を新設。使用料相当額を支払えば、窓口組織が公告を行い、著作権者から申し出があるまで著作物を利用できるようにする。これにより、著作権者等を探索するコストが減少し、権利処理が容易になる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/12/23
■ 特許の哲学 No 79

「ファスト映画」で損害賠償5億円

 2022年11月17日、東京地方裁判所は「ファスト映画」をYouTubeに投稿した2人対し、著作権侵害による損害賠償保証金5億円の支払いを命じる判決を言い渡した。

 「ファスト映画」とは、無断で映画を10〜15分程度に編集した動画。最近では、視聴回数を増やして広告収入を稼ぐために、字幕やナレーションといった元の映画にはない表現が追加され、映画の内容全体を分かりやすく説明する工夫がされている。

コロナ禍による需要の増加により、2020年頃からYouTubeへの投稿が増加。ファスト映画専門チャンネルが乱立するなど、動画が多数作成・公開されてきた。

判決によると、被告は映画「シン・ゴジラ」や「おくりびと」など54作品を無断で編集し、YouTubeに投稿。動画は計1,000万回以上再生され、700万円程度の広告収益を得ていた。

 原告側は、被害総額を約20億円と算出し、その一部の計5億円の支払いを求めていたが、その請求通り全額の支払いを命ずる判決となった。ファスト映画を巡る賠償を命じた判決は今回が初めてとなった。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/12/01
■ 特許の哲学 No,78

特許訴訟  第三者意見募集制度について

 近年、複数の業界が関係するIoT関 連技術が目覚ましい発展をみせ、このような状況においては、裁判所の判断が、当事者のみならず当該特許権等に関連する多数の業界に対して事実上の大きな影響を及ぼす可能性があることから、裁判所が第三者の事業実態等も踏まえて判断することが望ましい場合がある。

 また、事案によっては、国際的な観点から捉えるべき争点が含まれることがあり、広く海外からも意見を集めることが望ましい。

 第三者意見募集制度は、上記のような事案について、裁判所が適正な判断を示すための資料を得るために、広く一 般の第三者から意見を集めることを可能としたものである。

 裁判所が、特許権侵害訴訟等において、当事者の申立てにより、必要があると認めるときに、他の当事者の意見を聴いて、広く一般に対し、当該事件に関する特許法の適用その他の必要な事項について、意見を記載した書面の提出を求めることができる。集まった意見は、 原告側と被告側とが内容を確認した上で、裁判の証拠として活用する。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)

2022/10/28
特許の哲学 其の77

特許・商標等の出願件数が増加

 特許庁は、知的財産制度に関心を持ち 理解を深めてもらうことを目的として、知的財産をめぐる国内外の動向と特許庁の取組について「特許行政年次報告書2022年版」として取りまとめ公表した。  
2022年版の報告書からは、2021年の知財出願件数や動向を知ることができる。  
今回のポイントは、以下の通り。特許庁では、商標審査に関わる調査などで人工知能を導入したり、外部委託することで効率化を進めてきた。その結果、 以下Bに記載の通り審査の短縮化が実現されている。

@
前年度よりも出願件数が増加
法域/年 2020年 2021年
特許 288,472 289,200
意匠 28,812  29,222
商標 163,148 164,537

A
外国人による日本への特許出願件数 は、中国のみではなく米国・欧州からの日本への出願件数が前年より増加
B
B商標審査の一次審査通知の平均期間が短縮(2020年:10ヶ月、2021年: 8ヶ月)
C商標の登録件数が大幅に増加 (2020年:135,313件、2021年: 174,098件)
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)


A外国人による日本への特許出願件数 は、中国のみではなく米国・欧州からの 日本への出願件数が前年より増加 B商標審査の一次審査通知の平均期 間が短縮(2020年:10ヶ月、2021年: 8ヶ月) C商標の登録件数が大幅に増加 (2020年:135,313件、2021年: 174,098件)
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/10/03
特許の哲学 其の76
「ビジネス・コート」開設

 企業の海外進出により国際的で複雑な法的争いが増えるなか、ビジネス関係の訴訟を専門的に扱う裁判所「ビジネス・コート」が東京・中目黒に誕生する。  
現在の霞が関の庁舎から、企業関係の訴訟や手続きを扱う知的財産高裁や東京地裁の東京地裁の「知財部」、会社更生や株主代表訴訟などを扱う「商事部」、民事再生や破産手続きを担当する「破産再生部」がまとめて移転する。  
テレビ会議システムを整備し、課題である迅速な審理の実現を目指す。新庁舎には最新の映像音響機器を設置。テレビ会議システムで遠隔地の裁判所などと結び、代理人弁護士らが上京しなくても打ち合わせをできるようにすることで、争点整理や審理のスピードアップを図る。  
知的財産や経済紛争に詳しい裁判官や調査官に加え、弁理士などの専門委員が1か所に集まることで、より専門性の高い審理や迅速な解決につながることが期待される。  
「ビジネス・コート」は2022年10月 11日から知財高裁、同月17日から東京地裁の商事部と知的財産権部、同月24 日から倒産部が業務を始める予定。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)

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