佐藤英昭の「特許の哲学」
2023/03/06
特許の哲学 其の80
メタバースでの模倣品対策
政府は、インターネット上の仮想空間 「メタバース」で販売されるデジタルの 模倣品も禁止することを目的として「不 正競争防止法改正案」を通常国会に 提出した。 メタバース市場は近年急速に拡大し、 企業の参入が相次ぐ。画面上で操る自身 の分身(アバター)が身につける衣服や アートなどの取引も始まっているが、アバ ターに着せる衣服や小物などで有名ブ ランドのデザインと酷似した模倣品が製 造・販売される恐れが指摘されている。 このメタバースは現実の空間とは異な り、不正競争防止法の対象外。 現行法では、模倣品を「譲渡し、貸し 渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示 し、輸出し、又は輸入する行為」を規制し ているが、ここにはネットワークを通じ、 デジタルデータという形で商品を販売等 する行為が明確に含まれていない。 そのため、メタバース上で模倣品が出 回っても、民事上の法的措置を取れな かった。 今回、不正競争防止法の改正で「商 品形態の模倣行為」の対象をデジタル 空間上にも広げ、差し止め請求権などを 行使できるようにする。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/02/01
■ 特許の哲学 其の80
著作権侵害の賠償額 上乗せへ法改正
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、漫画やアニメなどが違法にアップロードされた「海賊版サイト」へのアクセスが急増し、著作権侵害の被害が深刻化している。
文化審議会の小委員会は、「海賊版サイト」の著作権侵害に対する損害賠償請求の賠償額算定方法を見直し、増額できるようにすべきとする報告書素案をまとめた。
素案では、現在認められていない著作権者の販売能力を超える分について、「ライセンス料相当額」として損害額に上乗せできるよう算定方法を見直す。ライセンス料相当額自体についても、侵害を考慮し増額できるようにする。
また、インターネット上で流通する権利者不明の著作物などの利用促進に向け、 新制度の創設も明記した。利用可否や条件など著作権者の意思が確認できないケースに対応するため「窓口組織」を新設。使用料相当額を支払えば、窓口組織が公告を行い、著作権者から申し出があるまで著作物を利用できるようにする。これにより、著作権者等を探索するコストが減少し、権利処理が容易になる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、漫画やアニメなどが違法にアップロードされた「海賊版サイト」へのアクセスが急増し、著作権侵害の被害が深刻化している。
文化審議会の小委員会は、「海賊版サイト」の著作権侵害に対する損害賠償請求の賠償額算定方法を見直し、増額できるようにすべきとする報告書素案をまとめた。
素案では、現在認められていない著作権者の販売能力を超える分について、「ライセンス料相当額」として損害額に上乗せできるよう算定方法を見直す。ライセンス料相当額自体についても、侵害を考慮し増額できるようにする。
また、インターネット上で流通する権利者不明の著作物などの利用促進に向け、 新制度の創設も明記した。利用可否や条件など著作権者の意思が確認できないケースに対応するため「窓口組織」を新設。使用料相当額を支払えば、窓口組織が公告を行い、著作権者から申し出があるまで著作物を利用できるようにする。これにより、著作権者等を探索するコストが減少し、権利処理が容易になる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/12/23
■ 特許の哲学 No 79
「ファスト映画」で損害賠償5億円
2022年11月17日、東京地方裁判所は「ファスト映画」をYouTubeに投稿した2人対し、著作権侵害による損害賠償保証金5億円の支払いを命じる判決を言い渡した。
「ファスト映画」とは、無断で映画を10〜15分程度に編集した動画。最近では、視聴回数を増やして広告収入を稼ぐために、字幕やナレーションといった元の映画にはない表現が追加され、映画の内容全体を分かりやすく説明する工夫がされている。
コロナ禍による需要の増加により、2020年頃からYouTubeへの投稿が増加。ファスト映画専門チャンネルが乱立するなど、動画が多数作成・公開されてきた。
判決によると、被告は映画「シン・ゴジラ」や「おくりびと」など54作品を無断で編集し、YouTubeに投稿。動画は計1,000万回以上再生され、700万円程度の広告収益を得ていた。
原告側は、被害総額を約20億円と算出し、その一部の計5億円の支払いを求めていたが、その請求通り全額の支払いを命ずる判決となった。ファスト映画を巡る賠償を命じた判決は今回が初めてとなった。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/12/01
■ 特許の哲学 No,78
特許訴訟 第三者意見募集制度について
近年、複数の業界が関係するIoT関 連技術が目覚ましい発展をみせ、このような状況においては、裁判所の判断が、当事者のみならず当該特許権等に関連する多数の業界に対して事実上の大きな影響を及ぼす可能性があることから、裁判所が第三者の事業実態等も踏まえて判断することが望ましい場合がある。
また、事案によっては、国際的な観点から捉えるべき争点が含まれることがあり、広く海外からも意見を集めることが望ましい。
第三者意見募集制度は、上記のような事案について、裁判所が適正な判断を示すための資料を得るために、広く一 般の第三者から意見を集めることを可能としたものである。
裁判所が、特許権侵害訴訟等において、当事者の申立てにより、必要があると認めるときに、他の当事者の意見を聴いて、広く一般に対し、当該事件に関する特許法の適用その他の必要な事項について、意見を記載した書面の提出を求めることができる。集まった意見は、 原告側と被告側とが内容を確認した上で、裁判の証拠として活用する。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/10/28
特許の哲学 其の77
特許・商標等の出願件数が増加
特許庁は、知的財産制度に関心を持ち 理解を深めてもらうことを目的として、知的財産をめぐる国内外の動向と特許庁の取組について「特許行政年次報告書2022年版」として取りまとめ公表した。
2022年版の報告書からは、2021年の知財出願件数や動向を知ることができる。
今回のポイントは、以下の通り。特許庁では、商標審査に関わる調査などで人工知能を導入したり、外部委託することで効率化を進めてきた。その結果、 以下Bに記載の通り審査の短縮化が実現されている。
@
前年度よりも出願件数が増加
法域/年 2020年 2021年
特許 288,472 289,200
意匠 28,812 29,222
商標 163,148 164,537
A
外国人による日本への特許出願件数 は、中国のみではなく米国・欧州からの日本への出願件数が前年より増加
B
B商標審査の一次審査通知の平均期間が短縮(2020年:10ヶ月、2021年: 8ヶ月)
C商標の登録件数が大幅に増加 (2020年:135,313件、2021年: 174,098件)
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
A外国人による日本への特許出願件数 は、中国のみではなく米国・欧州からの 日本への出願件数が前年より増加 B商標審査の一次審査通知の平均期 間が短縮(2020年:10ヶ月、2021年: 8ヶ月) C商標の登録件数が大幅に増加 (2020年:135,313件、2021年: 174,098件)
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/10/03
特許の哲学 其の76
「ビジネス・コート」開設
企業の海外進出により国際的で複雑な法的争いが増えるなか、ビジネス関係の訴訟を専門的に扱う裁判所「ビジネス・コート」が東京・中目黒に誕生する。
現在の霞が関の庁舎から、企業関係の訴訟や手続きを扱う知的財産高裁や東京地裁の東京地裁の「知財部」、会社更生や株主代表訴訟などを扱う「商事部」、民事再生や破産手続きを担当する「破産再生部」がまとめて移転する。
テレビ会議システムを整備し、課題である迅速な審理の実現を目指す。新庁舎には最新の映像音響機器を設置。テレビ会議システムで遠隔地の裁判所などと結び、代理人弁護士らが上京しなくても打ち合わせをできるようにすることで、争点整理や審理のスピードアップを図る。
知的財産や経済紛争に詳しい裁判官や調査官に加え、弁理士などの専門委員が1か所に集まることで、より専門性の高い審理や迅速な解決につながることが期待される。
「ビジネス・コート」は2022年10月 11日から知財高裁、同月17日から東京地裁の商事部と知的財産権部、同月24 日から倒産部が業務を始める予定。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
企業の海外進出により国際的で複雑な法的争いが増えるなか、ビジネス関係の訴訟を専門的に扱う裁判所「ビジネス・コート」が東京・中目黒に誕生する。
現在の霞が関の庁舎から、企業関係の訴訟や手続きを扱う知的財産高裁や東京地裁の東京地裁の「知財部」、会社更生や株主代表訴訟などを扱う「商事部」、民事再生や破産手続きを担当する「破産再生部」がまとめて移転する。
テレビ会議システムを整備し、課題である迅速な審理の実現を目指す。新庁舎には最新の映像音響機器を設置。テレビ会議システムで遠隔地の裁判所などと結び、代理人弁護士らが上京しなくても打ち合わせをできるようにすることで、争点整理や審理のスピードアップを図る。
知的財産や経済紛争に詳しい裁判官や調査官に加え、弁理士などの専門委員が1か所に集まることで、より専門性の高い審理や迅速な解決につながることが期待される。
「ビジネス・コート」は2022年10月 11日から知財高裁、同月17日から東京地裁の商事部と知的財産権部、同月24 日から倒産部が業務を始める予定。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/09/01
特許の哲学 其の75
Amazonと財務省
模倣品対策で連携強化
Amazonジャパンは、知的財産侵害物品等の国内流入防止を目的に、財務省関税局と模倣品等の水際取締りに関する協力関係の強化についての覚書を締結したことを発表。財務省関税局がEC事業者と覚書を締結するのは、今回が初となる。
財務省関税局長は「インターネットの普及と国境をまたいだ電子商取引の急速な進展に伴い、模倣品等の流通が大きな問題となる中、Amazonジャパンと知的財産侵害物品等の水際取締りに係る協力に関する覚書を締結したことで、水際取締りのさらなる強化が期待される」と述べた。
今回の覚書の締結により、両者は模倣品などの国内流入防止のための協力関係の強化方法について共同で検討し、税関が差し止めた模倣品や関連する模倣品業者に関する情報交換を進めていくとしている。
これにより、水際での模倣品業者の特定や悪質業者の取締りをより効率的に行い、模倣品などの国内流入防止のより一層の強化が期待できるとしている。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/07/31
特許の哲学 其の74
知的財産推進計画2022決定
2022年6月3日、首相官邸において 知的財産戦略本部が開催され、「知的 財産推進計画2022」を決定した。重点 8施策として、以下が挙げられている。
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スタートアップ・大学の知財エコシス テムの強化
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知財・無形資産の投資・活用促進メカ ニズムの強化
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標準の戦略的活用の推進
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デジタル社会の実現に向けたデータ 流通・利活用環境の整備
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デジタル時代のコンテンツ戦略 ・中小企業/地方(地域)/農林水産業分 野の知財活用強化
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知財活用を支える制度・運用・人材基 盤の強化
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アフターコロナを見据えたクールジャ パン(CJ)の再起動
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会合に出席した岸田首相は、デジタル時代に対応した著作権制度改革の必要性を強調。また、スタートアップが知財を事業化につなげ社会実装しやすい環境づくりに取り組む考えや、ブ ロックチェーンやメタバースなど、WEB3.0と呼ばれる技術の活用を推進し、仮想空間上のコンテンツの創作・流通・利用を後押しするため、新たな法的課題の把握や論点整理を官民一体でルール整備を進めることを表明した。
(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/06/30
特許の哲学 其の73
水素燃料電池の特許件数、 中国が世界の7割
二酸化炭素(CO2)を排出しない クリーンなエネルギーとして期待されている次世代エネルギー「水素」。この水素と酸素を化学反応させて水を作り、この過程で発生する電気や熱をエネルギーとして使う仕組みの「燃料電池」が注目されている。
この「燃料電池」の特許出願件数を世界知的所有権機関(WIPO)が発表した。これによると、2020年の世界の水素燃料電池の特許出願件数は10,523件で、過去最大の2019 年(11,291件)に次ぐ件数だった。
出願人の国籍別では、中国が7,26 1件で最も多く、全体の69%を占める。日本(1,186件)、ドイツ(646 件)、韓国(583件)、米国(403件) がそれに続く。2014年までは日本がトップを維持していたが、2015年以 降中国の独走状態が続く。
企業別では、トヨタ自動車(2,72 0件)が最大で、現代自動車(1,402 件)、ホンダ(1,191件)、ゼネラルモーターズ(697件)、フォルクスワー ゲングループ(671件)などが続く。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2022/06/01
特許の哲学 其の72
特許・商標・意匠出願件数が増加
特許庁は、2021年の統計情報及び政策の成果を掲載した「特許庁ステータスレポート2022」を発表。本レポートでは、知的財産制度を取り巻く現状や特許庁の取組等をいち早く発信している。 (1)ウィズコロナ・ポストコロナ時代に対応したデジタル化:特許庁では、新型コロナウイルス感染症が拡大する中においても審査・審判手続を継続するとともに、デジタル化等の社会構造の変化に対応するため、ITを活用したコミュニケーションを積極的に実施。特許審査においては、2021年に実施された面接審査1,689件のうち、1423件をオンラインで実施した(昨年比40.2%増)。また、テレワーク中の審査官・審判官がユーザーに対して電話で連絡をする手段を整備した。(2)出願件数:2020年に比べ、2021年の特許・商標・意匠出願件数はいずれも増加した。・特許:289,200件(前年比:+728件)・商標:184,631件(前年比:+3,559件)・意匠:32,525件(前年比:+727件)(特許業務法人共生国際特許事務所所長)