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価格競争やブランド化が激しい時計業界を代表する、日本時計輸入協会の理事長、山崎剛さんに聞いてみると、「2009年より、バーゼルフェアに重ねて開催していたジュネーブサロンが1月に開催されるようになるでしょ!と“2009年問題”からスタート。「あるメーカーの話だと、『最近、パーツの生産が以前よりも非常に時間が掛かり、これまでの4月頃の開催では、パーツが納品される前に夏のバカンスが始まり、新商品が夏の商戦に間に合わない』と言っていたんです」と現在の時計業界の悩みを紹介。「そんな傾向から、『プレ…』と称し2月〜3月に国内で受注会を行うブランドも出てきました。しかし、これには少し疑問を感じるんです」と早い段階での受注会を不安視。「昔の時計業界の常識では、バーゼルやジュネーブサロンというのは新年度である9月から翌年の8月までの新商品を発表する場であって、夏の商戦をその年度に含めるのであれば、それは年度のスタートを9月から7月に改めるべきではないですか?」と疑問を投げかけている。また、「一時期、ファッション業界の冬のバーゲンを『人より先に始めて売ってしまう』という、常識を破るブランドが乱立し、中にはクリスマスが終わった翌日からバーゲンという異常な状態になった頃がありましたが、今の時計業界はそれと似たような匂いを感じます」と業界の乱れを指摘した。そして、「“人より先に…”というのは、ビジネスではとても重要なキーワードとなるが、その中には王道と裏道を歩むものが存在すると思っています」と語る。「今回の時計業界の変化は王道に沿った変化であり、決して裏道ではないことを願うんです」と業界が正しい方向に進むべきことを期待していた。最後に、「今年も多くの方々がバーゼルやジュネーブへ足を運ばれることと思いますが、業界の変化にも目を向けて、業界全体で真実を見極める目を持つことも重要なのではないでしょうか?」と訴えかけていた。

ユーロパッションは数多くの輸入ブランドを取り扱うが、昨年11月には、これらの製品を一堂にそろえた直営店「EURO PASSION OMOTESANDOU」を東京・表参道のファッションビル「ジャイル」にオープンした。単一ブランドショップは数多いが、ここは、輸入商社自身による個性的なブランド群の旗艦店として注目を集めている。かつて、日本はファーイーストの特殊な構造をもつマーケットといわれるなかで日本資本の代理店が育て上げた有名ブランドが、やがてブランド自身による「△△ジャパン」が設立されて代理店が移行していった例は枚挙にいとまがない。大上社長は「自社における1ブランドのシェアが30%を超えないようにしている」という。企業存続のためのひとつの考え方だろう。だからこそ、同社の扱うブランドは多彩になる。しかも旬を捉えたブランドがそろうのも同社の企業戦略の特徴だろう。そうした大上社長の見る今年のウオッチマーケットは「男性用の高額品は機械式でなければいけないという傾向がますます強くなる。女性用はクオーツでも売れるが、高額品になればやはり機械式指向が強くなるだろう」とここ数年の傾向が続くとする。そして「以前は、商品の個性だけで売れた時期もあった。しかし昨今は、加えてブランド、つまりある程度の知名度がないと売りづらい。知名度を上げるには広告宣伝が最善の方法だが、時間と資金がかかる。しかもそれを行ったからといって、リターンの保証はなくリスキーなものだ」と、巷ではなにかとウオッチが話題になる一方で、「ユーザーニーズがますます多様化すると同時にウオッチの実用性は低くなっていく」マーケットの実態への対応は厳しいとの見方だ。

アジアを代表する「香港ウォッチ&クロック・フェア」を主催する香港貿易発展局のRaymond Yip 氏にアジアマーケットの展望について聞いた。「すでに成熟産業である時計業界は世界的な安定成長が予想され、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの大規模な市場では1ケタの成長率が見込まれます」と語り、07年から10年の日本市場の成長率は1〜2%程度になるだろうと予測した。また、アジア市場のウォッチ需要は「中国やインドを原動力に今後も堅調な伸びが予想され、中国市場の高級ウォッチに対する需要の高さがヨーロッパやアメリカからの輸入を促進し、3〜4年前に比べてはるかに多くの金額がウォッチ購入に費やされています。また、今後インド市場においては、輸入量が2ケタの成長率になるだろう」と明かした。傾向としては「デザイン性を求める傾向が今後も続きます。デザイン性の高い商品が成熟した市場で販売を刺激する効果をもたらし、デザイナーブランドなど新素材を使用した斬新なスタイルの商品がどんどん登場します」とし、東洋的なデザインなどが最近特に人気だという。また、「独自のウォッチをつくる高級ブランドや自動車会社も出現し、新興市場の消費者が豊かになるほど、ブランド・ウォッチの需要が増加する」と指摘した。最後に、「香港ウォッチ&クロック・フェアでは、これらの傾向を見て、高級オリジナル・ブランド・ウォッチをはじめ、ファッション・ブランドやデザイナー・コレクションのブランド・ギャラリーなど、今後もトレンドを発信し続けます」と締めくくった。

日本最大手といえる百貨店、(株)三越の時計・メガネを担当するバイヤー、清水誠さんに話を聞いた。「最近のバーゼルフェアやSIHHについて感じることは、技術革新や素材、こだわりの追及などもあって新製品の価格が全体的に高くなりつつありますよね。勿論プレステージ性も大切ですが、今までの“買いやすい商品”までもが高くなると、現状の販売本数減少傾向などもありマーケット全体に不安を感じます」と時計の全体的な価格上昇を懸念していた。「どのラインが“買いやすい商品”かは消費者により違いはありますが、この価格帯に話題性が増せばもう少し時計業界の流れも良い方向に向かうのではないでしょうか」と価格帯の戦略に疑問を投げかけていた。また「気になる流れとして、メンテナンス・フリーの開発や異素材の使用に大手企業が取り組んでいることは、将来的に大きな可能性に繋がると思うし、消費者寄りのモノ作りとして期待できることのひとつだと思います」と新しい時計業界の流れにも目を向けている。「三越の時計売場は、今年度全店計で昨対比7%増をキープしていますが、常に売場に動きが必要で立ち止まっているとすぐにマイナスに転じます。また、ただ売るだけでなく、トータル的な販売を行い、安心感を持っていただくことが大切で、時計のメンテナンスも大切なことのひとつです」と消費者信頼を強調。「時計業界が新たな領域に入っていく中で多くの“時計愛好者”の見る目も更に厳しくなりました。これからもいかに時計文化の楽しさ、おもしろさを伝えていくかを考えています」と消費者目線での考えを重要とした。

世界最高峰の時計と宝飾の見本市を主催するBASELWORLDのShow Director Sylvie Ritterさんにフェアについて聞いてみると、「私たちは、10万人を越えるバイヤーが、時計と宝飾品関連すべてにおいて、革新的な発見と新しい傾向・トレンドについての情報を集められるように毎年努力しています。バーゼルワールドが市場をつくり出し、バイヤーなどが広範囲に情報などを得られる場所になっています。既存の関係を保ったり、新しい価値あるコンタクトを結んだりすることが可能な場所なんです。出展社からバイヤー、さらにはメディアに至るまで、トップクラスの人たちが現地バーゼルで活動に入るので、大きな価値あるフェアになっています。バーゼルワールドのように全ての異なる価格帯や幅広い製品を扱うフェアは他にはなく、言い換えれば、世界全体の時計と宝飾品関連すべてが揃うバーゼルフェアを誇りに思っています」と明言した。また、「今年のフェアは、昨年に引き続き好成績を上げると見込んでおり、さらに拡大することでしょう」と確信していた。

ヨドバシカメラの誕生で、大きく変貌を遂げた電気街秋葉原。その中でも広大な売り場を活かし、来航ブランドから国産ブランドまで幅広い品揃えで展開するヨドバシカメラマルチメディアAkibaの時計コーナー。ここで元気に接客するプロダクトスペシャリストの鈴木理之マネージャーに話を聞いた。「バーゼルフェアを意識した販売形態はとっていませんが、弊社藤沢社長の意向で、最近陳列ケースをハイケースに変えました。これにより、以前と比べお客様の目線が下から上へと変化し、大きな集客効果を生んでいます」とブランドごとの差別化されたレイアウト空間を紹介してくれた。「商品数も増えたので、国産と海外ブランドに大きく分け、ブランドごとに大きなPOPで紹介しています。秋葉原という地域柄、海外からのお客様も大変多く、何処に何があるかを明確にすることが大切なんです」と、秋葉原ならではの客層に合わせた販売力の構築を目指している。「ただ商品を売るだけの時代は終わり、「地域密着型」で、「当たり前の接客」を行い、元気にお客様に声をかけ、お客様の要望や希望に親身になって応えるのが基本です」と“当たり前”のサービスに力を注ぐ鈴木さんは、インタビュー中でも走ってあちらこちらの対応に追われていた。また、「定番品をどんな時でも揃えておくことが“ココ”では大切なんです。お客様には、豊富な品揃えの中から商品を選んでいただけるよう日々準備をしています。当たり前の接客と当たり前の品揃えが結局大事なんですよ」と、鈴木さんは笑顔で業務に戻っていった。

2009年に創業130周年を迎える、東京銀座の天賞堂は、“時計屋が欲しくなるウオッチ”をコンセプトにオリジナルウオッチを2001年から創り始め、7年目にしてコレクションも増え、多くの消費者の支持を得ている。同店の江田本部長は、これからの専門店について「値段の高いスイス時計ブランドがやたら多くなり、消費者が迷っている時代です。そんな時に専門店は、消費者のニーズに合わせた良いものを勧めるのが使命。「本物を、本物のサービス」でお客様に接するのが専門店の本来の姿であり、今こそ専門店の時代ではないでしょうか。アフターを含め、売りっぱなしではなく納得のいくサービスでお客様の満足を得なければ専門店とはいえません」と本物の専門店を強調した。

「僕はもう昔からバーゼルには通ってるんだよ。まだほんの小さな会場から始まった時からだから、30年も前になるかな」とバーゼルのことを良く知る、バーゼル通の旭時計店三島社長に窺ってみた。「その昔は日本人に似合った時計もたくさんあったけど、今はその魅力をちっとも感じない。そう思わないかい?」と、逆にいきなり質問された。「昔はもっと日本人に合った時計がいっぱいあったんだよ。去年のバーゼルでも、日本人に似合いそうな時計は、あまり見なかったなぁ」と言い、日本マーケットが優先されていた時代を教えてくれた。「もっと消費者のことを考えたモノ作りをメーカー側に考えてもらいたいよね。日本はドバイやロシアじゃないんだから」と販売店目線での意見は貴重である。「オーバーホールの値段も上がってるし、本体価格に見合った料金にすべきだよね。このままだとコレクターや、ファンが逃げてしまう恐れもあると思うよ」と危機感を募らせていた。「銀座や青山、六本木?華やかになるのは、それはそれでいいけど、中国の購買力が終わったら非常に危険な状態にあるんじゃないかと考えてるんだ、僕は」と最近のブランド構築ラッシュにも触れてくれた。「それでも僕は、今年もバーゼルに行くし、好きな時計を売って生きていくのが楽しいよ」と話してくれた。

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