| 思想に関する批判など求めたい気持を持っているように想像された
《昭和三十八年M》 世界の人の注視の的となっているベルリンの壁は、西と東の交通を今なお斜断しているという。その状況を見学するために、世界中から観光客がここにやってくるのである。 我等一行のガイドは、ベルリンの技術大学の女性のハンターさんという人であった。バスの中でこの女性は、西と東の壁について見る人遠の感情がどう変わるであろうか、よく見て来てほしいと強調していた。人によっては、いろいろ違う見方もあるようだが、ドイツの人は心の中で、これらに関する何ものかを求めているらしいようだが、それを表面には出そうとしないように努めているのが判るように思えた。案外青年層の中には、この壁を通じて、思想に関する批判など求めたい気持を持っているように想像された。 この序で一つのエピソードを紹介しておこう。 ホテル「ロッキシー」に宿泊中、エレベーターのドアーを止めたままドイツ人の一青年が私に話しかけて来て困ったことがあった。「君はジャパニーズ、ビジネスマンだろう」と英語で聞いてきたのである。だが、この時私は外出する途中で、自室に用事があって帰って来たので、表には自動車が待っている時だった。私は単独では会話の点でも困るので、ただそれをさえぎるだけに努めたのだが、おそらく彼は、日本人は且ては旅人と共に防共の仲であったのではないか、という戦争時代の感慨などについて会話をしたかったのだろうと思えた。 そんなこともあっただけに、とにかくベルリンの壁については直視してみた。そう考えてくると、このベルリンの壁ということについては、何れの面からでも悲哀感をもって見守っているように見えたのである。写真は、ベルリンの壁を覗き見る観光客。 |
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