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田中里味の『ことばの宝石 @』

■願いと祈り 12 ■2016年1月15日 金曜日 14時28分18秒

ユダヤのタルムードに「宝石を扱いし者、神から選ばれし者」という言葉があるとお聞きした事があります。
この言葉は、宝石を扱う者として背筋をピンと伸ばし、襟を正させてくれると同時に、大いに誇りを与えてくれました。
今年、一月から書かせていただいた「ことばの宝石」も、今回が最後となります。お客様との関わりの中で実際にあったエピソードをご紹介させていただいたのですが、「感動しました」「いつも、楽しみに読ませていただいています」「記事をファイルにして、とっているのですよ」などの、お声がけを頂き、どんなに励まされたか、計りしれません。そんなお言葉の一つひとつが、また書かせていただく原動力になりました。本当に一年間、ありがとうございました。心から感謝の気持ちで溢れています。
21世紀のメインテーマは、「目に見えるもの」と「目に見えないもの」、統合と調和です。宝石を通じて、お客様を通じて、その関わりの中で、まさに「目に見えるもの」だけでなく、「目に見えないもの」を多く味わい、感じさせていただきました。
宝石を持つことで、人は明るくなり、元気になり、優しくなり、聡明になり、謙虚になり、そしてエレガントになられました。美しいものを観ること、美しいものを持つことは、まさに、その人自身の内なる光を観ることであり、輝かせることになるのだと、心から強く強く感じるのです。そして、そのような場面に、たくさん遭遇してきました。
人は、傲慢を捨て、わがままを捨て、本当に素直になったとき、また、心から感動したとき、その人らしい本来の力や能力、優しさ、思いやりが出てくるようです。お一人おひとりが、心から「美しい」と思える、その方にぴったりの宝石との出会いによって、一層輝きをますのです。
私の願いは、一人でも多くの方々に、宝石を持つ本来の意味や価値を知っていただき、人として、男性として、また女性として、宝石のようにうちから真に輝いてもらいたいということです。そのために、その方にぴったりの、その方らしい、その方自身のような宝石との出会いをつくること、ご縁をつくること、ご縁をつなぐことこそが使命であると感じています。
大自然が永い永い年月をかけ、育んでくれた美しい宝石、何億年、何十億年という、そんな時間が、大自然に対する畏敬の念や、謙虚であること、感謝することを伝えてくれています。地球の歴史を24時間に例えると、私たちの一生は、たったの千分の一秒です。まさに、たまゆらのときでしかありません。宝石も人も唯一無二の存在。かけがえのない存在。だからこそ、出会いを大切に、ご縁を大切に、宝石一つ一つに、お客様一人ひとりに真摯に向き合い、そのご縁を丁寧に繋いでいきたいと思います。
一年間、ありがとうございました。心から感謝です。
■真善美を求めて 11 ■2015年10月29日 木曜日 15時6分9秒

人は、潜在的によりよくなりたいという気持ちを持っています。永い歴史の中で、多くの人たちがしてきたように、絵を観たり、音楽を聴いたり、美しいものに触れ、心を優しくすることで、自分自身をとりもどしてきたのだと思います。
「知音」(ちいん)という言葉をご存知でしょうか?中国春秋時代に、鍾子期(しょうしき)という人と伯牙(はくが)という琴の名手がいました。伯牙が、琴を奏でるとき、鍾子期は、伯牙の心が手に取るようにわかります。伯牙の喜びは、自分の喜び。伯牙の悲しみは、自分の悲しみ、伯牙の苦しみは、自分の苦しみなのです。
伯牙の奏でる琴の音は、自分以上に自分の心を揺り動かすのです。自分と伯牙、自分が伯牙なのか、
伯牙が自分なのか、区別がつかないくらいよくわかる。言葉を交わさなくてもよくわかる。こんな二人のことを「知音」といいます。
「弾く者」と「聴く者」の関係性のその彼方にあるもの、そんな関係を遥かに超えた関係。自分と相手との区別があるうちは、本当の音を聴くことができません。本当の音を知ることもできません。
相手にしっかりと、寄り添うこと。自分自身、こちらの都合を押し付けるのではなく、しっかり相手の言うことを聴くことこそが、どんなに大切なのかと思います。
お客様と宝石の関係においても、又 お客様と販売員の関係においても、そのように感じる場面に出会ってきました。
自分自身を捨て去り、ひたすらに ひたむきに聴くこと。打算を捨て、我欲を離れ、真剣に向き合うこと、寄り添うこと、そんな関係づくりこそが、もっとも大切なことなのでしょう。
お客様との多くのエピソードの中から、又 美しい宝石から、そんな気づきを、たくさん頂きます。
人は、自分を癒すものは何かということを、潜在的に知っているのでしょう。きちんと自分の欲するものをもとめることもできるのです。
宝石は、いつも私たちの身近にある自然の華です。そして静かに多くのことを伝えてくれています。
自らの心の状態を、そっと耳打ちしてくれます。
あっという間に、月日は流れて、後一回の投稿を残すのみになりました。来月は「願い」と「祈り」というテーマで締めくくりたいと思います。
■水の如くに Vol10 ■2015年10月29日 木曜日 15時4分31秒

水の如くに
よどみなく
さらさらと流れよう
どんなに良いことがあっても
どんなに悪いことがあっても
さらさらと流れよう
水の如くに
流れようよ

自然ほど素晴らしいものはない・・・と、心から感じています。リズムもバランスも、タイミングも、最高なのです。全てにきちんと、調和がとれているのです。
最近の判断基準は、「正しいか」「正しくないか」ではなく、「自然か」「不自然か」。
どんなに、正しいといわれることであっても、そこに少しでも不自然さを感じると、違和感を覚えます。自然体、こんなに素晴らしいものはないのではないかと、心から感じています。
その自然の華である宝石、その宝石を扱えることは最高の喜びでもあります。加工業や製造業の方々の役割が、人の「不」を解決することであるならば、私たち宝石を扱う人の役割は、もっと もっと宝石の「意味」や「価値」を伝えることなのではないでしょうか。
宝石を持つ意味や価値が、より深く理解されれば、自然や宝石を通じて、自然とのつながりの中で尊いいのちの素晴らしさや個々の創造性、感性、自分らしさへの気づきの中から、きっと一人ひとりが喜びや希望に満ちた人生を築いていくことに繋がっていくのではないかと思います。

自然から人間を観る視点
宝石から自分を観る視点

自然や宝石は言葉のない世界です。しかし、実に多くのことを私たちに教えてくれています。観ようとしなければ、何も観えない。感じようとしなければ、何も感じない。
意味のある、価値のある宝石を持つことは、そこに意識をもち、見えないものを観る、感じることで、より謙虚に、より感謝の気持ちを持って生きることができます。
そんな自然の素晴らしさ、宝石を持つ素晴らしさを、きっちりとお伝えできれば、お一人おひとりに、より幸せと喜びを与えることができるのではないでしょうか・・・。
自然も宝石も美しく素晴らしい。
水の如くによどみなく、さらさらと流れていつも いつも自然体でいたいですね・・・。
■すなおな心で・・・ 9 ■2015年9月24日 木曜日 12時35分48秒

素敵なカップルがいらっしゃいます。いつも いつもお二人でご来店してくださるのですが、もともとお二人で来られていたわけではありません。最初は、お一人。そう、まだご主人が独身時代に、時計の修理などでご縁のあった方です。宝石には、まったく興味をお持ちではありませんでした。
 あるとき、たまたまお一人でご来店された時が、オパールの展示会を開催しているときでした。何気なく座っていらっしゃるAさんに、オパールを見て頂いたのです。500点ほどの中から、選ばれたとても素晴らしいオパールです。
Aさんは、その時の印象や感想をこのように伝えてくださいました。
「本当の美しさを知ったのです。」
「それまで、じっくり宝石を見ることもなく、そのような機会もありませんでした。」
そして、思われたそうです。
「いいものを、近くに置いておきたい。」・・・と。
それから、Aさんの宝石を観る目は変わりました。宝石だけではありません。本当に美しいものを観ることによって、そのほかすべてのものを観る目も変わったのだそうです。本質を観る目。しっかりと観察をして、意識してみる目、ものごとを観る目が肥えたそうです。その後、Aさんは、とても笑顔の美しい女性にめぐり会われました。そして、しっかり彼女のハートを射止められたのです。幸せなご結婚をされたAさんのご家庭は、まるで太陽のようなご家庭です。 多くの友人も集います。それからは、ずっとお二人。いつも 最高の笑顔で来店くださいます。
たった一つのオパールとの出会いが、Aさんの視野を変え、視界を変え、思考を変え、出会いや、人生も変えました。
大げさなようですが、まさにそのように感じます。Aさんが「本当の美しさ」に出会ったとき、きっとその感動が、Aさんを、とても素直にさせたのだと思います。その素直なお気持ちは、ものごとをありのままに見抜く力となり、すでにあった高い感性を、さらに高めることとなりました。
本当に美しい宝石は、言葉では、語ることができないほどの素晴らしい力を持っています。そんな宝石の力をかりながら、お客様お一人おひとりのお幸せのお手伝いができること、お役に立てることは、なんと幸せなことでしょう。
Aさんと同じように、心を素直にして、本質を観る目、本質を観ようとする習慣を、ぜひとも持ち続けていきたいと心から思います。
■こころは繋がって・・・こころはひとつ Vol 8 ■2015年9月1日 火曜日 16時16分38秒

素適なお客様が、たくさんいらしてご紹介したい物語がたくさんあります。そんな中で、思うことがあります。
とても素晴らしい宝石は、その宝石が一番行きたいところ、一番その宝石にふさわしいお客様のところへ、一番
良いタイミングでいくということです。それは、まさに「あるべきものが あるべきところへ あるようにある」という感じなのです。
 あるとき、テリもマキも素晴らしい、私も大好きな真珠の指輪がありました。デザインがシンプルすぎるのか、なかなかお嫁にいけません。なぜ、こんなに良いものが、さっさと嫁いでいかないのかと不思議で、不思議でなりませんでした。そんなある日、ピエロを専門に描いていらっしゃる、とても素敵な女性画家さんが訪れて、予算を遥かに超えているにも関わらず、それを、とてもお気に召してくださり、ご購入くださったのです。
たいへん喜んで、そして最高の笑顔でです。後日、お電話をさせて頂くと「本当に喜んで身に着けているのよ。夜にもそっとケースを開いて眺めているの」・・・とのこと。とても、大切にしてくださっているのです。何と幸せな真珠でしょう。
 また、以前ドイツを訪れ、カメオ作家さんのおうちで見つけたアメトリンの原石。それを磨き、彫っていただいたカメオがありました。
トルマリンのところに美しい顔を、アメジストの部分に流れるような髪の毛をと、リクエストして彫っていただいた“こだわりのカメオ”です。何とも素晴らしく美しいカメオなのですが、ブローチにもペンダントにもあえてしないで、ルースのままにしていたせいなのか、積極的におすすめしないでいたせいなのか、嫁がずにありました。
いつも いつもこぼれるような笑顔が素敵で、とてもチャーミングなTさん、とおり過ごそうとしたケースの前を、何かに呼び止められるように振り返られ、その素敵なカメオに目をとめられたのです。何ともスローモーションのような出来事です。
そのカメオを手に取り、じっと眺められながら、石の素晴らしさ、その少女の美しさ、光による色の変化、すべてに感動されて、素敵な笑顔がさらに輝いているのです。
なぜ、こんなに素晴らしい宝石が、すぐにお嫁に行かないのだろう・・・。不思議に感じていたその疑問は、すっ―と解決したのです。
素晴らしい宝石は、じっと待っているのです。いくべきところ、持っていただきたいところ、大切にしてくださるところ、それをしっかり、宝石自身が選んでいるのだと感じた出来事でした。
素適なお客様を、まさに宝石自身が呼び止めるという感じなのです。それが、何とも腑に落ちて、人も宝石も、ものも、全てのものに心があるように思えてなりません。だからこそ、いつも いつも素晴らしいお仲人でありたいものだと思います。
satomist@gmail.com/
■ありのままに…憧れて 7 ■2015年7月16日 木曜日 12時56分22秒

宝石は美しいもの、希少価値のあるものに違いありません。しかし、それ以上に大切なこと・・・。それは、宝石とのかかわり方や持ち方なのではないでしょうか?どんな気持ちで持つのか・・・。それが、とてもとても大切なように思います。
どの宝石も、その宝石を覗くと、まるで何億年、何十憶年も前の大自然が描いた素晴らしい芸術作品を見るようです。
長い長い時間の中に、自分自身を感じるとき、とても、とても小さな存在に感じて、謙虚に、温かく、やさしくいることの大切さを心から感じるのです。人間によって作られた多くの物があふれる中、又 いろいろなことを考え込んでしまうような思考に支配される中、大切なことは、豊かな想像力や感じる心なのではないかと思います。
そんなことを、一つひとつの宝石が、又、お客様が伝えてくれています。
素直に、純粋に、やさしい気持ちで、宝石に向き合った時、本来あるがままの、ありのままのそんな気持ちが、活き活きとよみがえってくるように感じるのです。
ある産婦人科医の先生は、芸術性の高いカメオが大好きで、たまにお立ち寄りくださいます。あるとき、時間がないと仰られていたにもかかわらず、一つの宝石にくぎ付けになられました。
じっと、じっと、長い時間、ときを忘れて、無言で見つめ続けてくださったのです。「これは、パパラチア。インド洋に沈む夕日の色なのですよ。」それを、静かに感じてくださったのです。
 お客様Aさんは、とてもチャーミングなご婦人です。年齢は、かなりご高齢ですが、気持ちがとてもお若いのです。あるとき、美しい少女が描かれたストーンカメオを優しく手のひらにのせて、こんなお話をしてくださいました。
「この少女はね、私の17歳の時に、とてもよく似ているの。いつも、旭川の土手を自転車で駆け抜けていたのよ。今でも、その時のさわやかな風を肌に感じるの」。そう語られるまなざしは、まるで少女のようです。今も素敵なそのご婦人が、17歳の時、どんなに可憐で美しい少女だったのか・・・。
はっきりと、目に浮かぶようでした。お一人おひとりの出会いや、想い出、そのかかわりが何とも素敵で、感激や、感謝、感動を分けて頂きます。宝石をとても大切に、宝ものとしてくださっているご様子は、何より自分自身を大切に生きていらっしゃることが伝わってきて、なんて素敵な存在でいらっしゃるのかと、こころから憧れてしまうのです。素晴らしい宝石とともに、目に見えない大切なこともお伝えすることができれば、もっと多くの喜びを感じて頂けるのではないでしょうか?
satomist@gmail.com/
■ことばの宝石 6 ■2015年6月2日 火曜日 13時19分26秒

素適なご縁を繋いで

ジュエリータナカの創業は、1919年というお話は、以前にもさせて頂きました。多くの宝石店が、もともと時計 眼鏡を販売していた販売ルートを活かして宝石も扱い始めたという流れがありますが、弊社の場合は創業者 田中愛一が、一人のお客様のためにその人だけの指輪を創ったことから始まります。まず、“人がいてその人のために、その人のための指輪を”創ったのです。
その創業の精神を受け継ぎ、弊社の強みは宝石から選んでいただく、オリジナルのジュエリー制作にあります。
その中でも最も、力を入れているところが、そのお客様にあった、そのお客様が感動する宝石を見つけること。
それは、並大抵のことではありません。なぜなら、宝石は人間が創ったものでなく、自然の恵みだからです。
ルビーと称される石、エメラルドと称される石は、たくさん在っても、本当に美しいなぁ〜と、ため息が出るような石を見つけることは、容易なことではないからです。
パワーストーンと称して様々な品々が、販売されていますが、真のパワーストーンとは、何か?
それは、その人が本当に素直な気持ちになれたり、優しくなれる、謙虚になれる宝石のことではないかと感じます。
お客様Hさんは、本当に美しいものが大好きでいらっしゃいます。ある日、「洗濯物を干していたら、なんだかふっとお店に行ってみようと思ったの」と来店されました。その日は土曜日。本来なら、その次の週、月曜日に到着予定であった、何とも美しいミャンマー産の翡翠のルースが、届いた直後のことでした。その包みを開いてお見せするなり、Hさんは、その美しさに魅せられてしまい、笑顔が絶えません。出会いとはこのようなものかと感じました。
砂漠を森にしようと、植林をし続けているある団体がありますが、砂の中に木を植えていくことは並大抵のことではありません。雨が降るから森ができるわけではありません。どんなに枯れても、せっかく植えた木が流されても、あきらめず根気よく植え続けることでその木々たちが、雨を呼び森となるそうです。
宝石も、不思議でそのような経験を何度かいたしました。純粋な気持ちで、本当に美しい宝石に出会ったとき、その宝石がその宝石にふさわしいお客様を呼ぶのです。
そして、何より嬉しいことは、その宝石をそのお客様が、宝物として、大切に大切に扱ってくださるということです。お手入れにも、頻繁にお持ちいただけます。単なるものではなく、宝物として、まるで自分自身に向き合うように慈しんでくださるのです。
お一人、おひとりのお客様のために その人だけの宝石とのご縁を、丁寧に繋いでいくことこそが大切に思います。
■ことばの宝石 5 ■2015年6月2日 火曜日 13時17分13秒

かけがえのない宝物 

ジュエリータナカ代表
田中里味
satomist@gmail.com/

もう随分前のことになりますが、『リ・スタイリング』と称して、お客様の前で、その日のうちにリフォームするという企画を開催したことがありました。アメリカから腕の良い職人さんが来られて、どんな宝石でも見事に新しいスタイル、デザインにその場でつくり変えてくれるというものです。通常リフオームは、2〜3週間から1カ月という日数を要するものが、お客様の目の前で新しいデザインに生まれ替わるのです。
何人ものお客様が、ワクワクされながら、ご自分の大切な指輪やペンダントを持って、参加してくださいました。
そんな中にとても素敵なご夫妻がいらして、赤い石の指輪をとても大事に見せてくださったのです。「これはね、もうずーと昔、主人が初めてプレゼントしてくれたものなのよ・・・」と、その頃、その時代の若い素敵なカップルが思わず、目に浮かびました。ご主人様からの初めてのプレゼント。それをとても大切にされ、優しく微笑まれている奥様、なんて素敵なんだろう・・・と、心からそう思いました。
その指輪をリ・スタイリングしようと楽しみに持ってこられていたのです。
他のスタッフに呼ばれて、ちょっと席を外したそのわずかな間に、起こっていたこと。それは、その日お手伝いに来られていたアドバイザーさんの心ないひとことでした。「あっ!これ合成ですよ。」そう、確かに、合成の赤い石ではあったけれど、それが合成であっても、ただの石ころであっても、それはご主人様が愛する奥様のために心からプレゼントしたかけがえのないもの・・・。奥様がとてもとても大切にされているもの。お二人で、楽しみに持ってきてくださった宝物。たった一言の言葉で空気は一変。
もう少しお伝えの仕方があったのではないでしょうか? お客様の気持ちに寄り添うことができたのではないでしょうか?
他のお客様が、素晴らしくリ・スタイリングされた指輪を身につけて、たいへん喜ばれている中、ご夫妻はリ・スタイリングされずに帰られたのです。お二人の想い出の指輪。きちんと説明(正しく情報をお伝え)をして、そのうえで お客様の気持ちをお尋し、納得された上で、大切な大切な想い出の指輪として、さらに素敵にお創りすることができたなら、どんなによかったでしょう。どんなに喜ばれたでしょう。今でも、悔やまれてなりません。
値段の高い安いではなく、本物 偽物だけでもなく、その方、おひとりおひとりにとっての、かけがえのない想い出は、何ものにも代えることはできません。目に見えるものだけでなく、目に見えない、もっと大切なものにも心を寄せて、心でしっかり感じて、様々な場面で、そのお客様おひとりおひとりにとっての喜びのお手伝いができれば、それこそが大きな喜びの華になるのではないでしょうか?
■幸せのピンキーリング 4 ■2015年3月31日 火曜日 16時56分36秒

ジュエリータナカ代表
田中里味
satomist@gmail.com/


お仕事には、実に様々なお仕事がありますが、私たちのお仕事も、とても素晴らしい素敵なお仕事だと心から感じています。日々、いろんな方々との出会いがあります。たくさんのことを学ばせていただきます。
お客様の中には、明るく元気一杯の方、とても物静かな方、ちょっと難しいお顔をされた方もいらっしゃいます。表情 雰囲気、皆 それぞれに違います。
そんな時、この方はいったい、どんな方なのだろう?何に興味があるのだろう?どんな宝石がお好きなのだろう?今、どんなことを大切にしていらっしゃるのだろう?そんなことを感じながら、お話をさせていただいていると、思いがけず、大変難しいお顔をされていらっしゃった方が、とても笑顔で たくさんおしゃべりしてくださったり、「私、なんでこんなことまで 喋ってしまうのかしら」・・・と、プライベートなことまでも色々お話しくださり、お客さま自身がたいへん、驚かれることも多々あります。
この方に寄り添おう、心を寄せよう、何か私で役にたてることはないかしら・・・。そんな気持ちで接していると
本当に心を開いてくださるのです。
ある時、ショッピングのついでに立ち寄られたというのでもなく、遠くから観光にこられたというのでもない、
スリッパばきの気軽な服装で、フラッと、はいってこられたひとりの女性がいらっしゃいました。少しお元気がなく、何気なくショーケースを覗いていらっしゃいます。何かを、お探しなのか、それとも ただのウインドショッピングなのか・・・。
そばによって 少し会話をさせていただいていたところ、こんなことをお話くださったのです。
その方は、Oさんと言われます。Oさんは、今 K病院に入院中であること。黙って、病院を抜け出されて、今ここにきたこと。もともとは、ドクターであるかたと結婚をされていたこと。そのご主人が家庭内暴力(DV)であったこと。
たいへん傷ついて離婚されたこと。その後、心労 ストレスから大病を患い、現在入院中であること。ショーケースを挟んでの立ったままでのお話でしたが、なんとも言葉になりません。
そんな時、ふっと目に入ってきたのが、かわいいピンキーリングでした。そのリングをそっとケースから取り出し、
Oさんにお見せして、「ピンキーリングは幸せを呼ぶのですよ。小指は、願い事が叶う指、チャンスを呼ぶ指なのですよ」とお話したところ、一瞬にしてパッと、Oさんのお顔が変わったのです。不思議なぐらい、明らかにです。
Oさんは、そのかわいいピンキーリングを優しく手に取ると、自分の小指にそっとはめて、微笑まれたのです。
来られた時の表情と全く違うお顔、明るく優しい表情が、そこにありました。その後、県外に引越しされましたが、
一年後、一枚のおハガキが届きました。新居の前で微笑まれる素敵なカップルのお写真が写っています。「結婚しました。」の嬉しいお知らせです。二年後、家族は三人となり、「長男ができました。」…と。なんともお幸せなご家族のご様子が、そこにありました。あの日の出会い。たった一つのかわいいピンキーリングとの出会いが、Oさんの心にそっと、灯をともし、勇気を与え、幸せを呼んだのです。
その時の可愛い赤ちゃんは、すでに中学生となり、立派に成長されています。そして、今でも、ご家族の素敵な年賀状が届きます。

■感動の美しい涙 3 ■2015年3月3日 火曜日 15時56分21秒

satomist@gmail.com

ジュエリータナカの創業は、1919年(大正8年)。板垣退助(政治家)やソドア・ルーズベルト(米 大統領)ピエール・ルノワール(画家)が生まれた年、又 マルセル・トルコフスキーが、ブリリアントカットを考案した年でもあります。
今年は、創業から96年目。その間に、何組もの素敵なカップルが、愛の証である美しい指輪を購入してくださっています。指輪が出来上がってきたその記念すべき日、ジュエリータナカの店内にて、お二人の大切な想い出の曲をお尋ねし、ピアノとベースのデュオで演奏させて頂いていたことがあります。その優しい想い出の曲が流れた途端に、私たちが見たもの、それは彼女のとても、とても美しい涙でした。
お二人が初めて出会われた日のことを思い出されたのでしょうか?何度も訪れた困難を乗り越えて、今日という日を迎えられた喜びからなのでしょうか?彼女のひとすじの涙は、本当に美しく、とても素直な気持ちが伝わってきて、そこに同席させて頂いていたスタッフも含め、皆に感動を与えてくれました。
婚約指輪を選ばれる日、幸せいっぱいのお二人の姿は何ともほほえましく、幸せを分けて頂きます。また、お気に入りのダイヤのリングを身に着けて、それを鏡に写され、「わぁ〜。綺麗!」とつぶやかれるその笑顔は、最高に輝いていて、ダイヤモンドの美しさを遥かに超えているのです。そして、見守る彼に向かって、「ありがとう!」と小さな声でひと言。そんな素敵な笑顔を拝見することは、最上の喜びでもあります。
「わぁ〜、綺麗!美しい!」というその言葉の奥には、「美しい心」があります。
「おいしいね!」という言葉の奥には、「優しい心」があります。美しい自然や美しい宝石には、そんな皆、誰もが本来持っている、美しい心を引き出してくれる、気づかせてくれる、人間の力を超えた大きな力が宿っているのだと感じます。
人が心から最も感動したとき、とられる二つの究極の行動があります。それは、「泣く」か「笑う」かでした。最高に美しい涙や素晴らしい笑顔を何度も、何度も拝見させていただき、喜びを共有させて頂けることは、なんと幸せなことでしょう。
真に美しいものは、強さと優しさを秘めて、人々に感動を与えていくのだと感じます。自然や宝石が、単なるものではないこと、まさに、私たち自身も自然の一部であることから、その無限の可能性や素晴らしさを、きちんとお伝えし、よりよく生きて、より幸せになられることを心から願いたいと思います。ジュエリータナカの片隅には、そんな素敵なドラマを、いくつもいくつも見てきた古いピアノが、今もひっそり置かれています。
■シンプルにエレガンス ■2015年2月6日 金曜日 16時24分18秒

satomist@gmail.com

真っ黒でツヤヤカな髪、透き通るような白い肌、そして真っ赤なルージュ、すっと伸びた美しい指。何とも美しい人。その方の名前はNさん、日本では稀なマダムです。
「掃除はしないのよ」と言われます。お手伝いさんがいるわけではありません。散らかっているわけでもありません。改めて、掃除を意識しなくてもよいくらい、整然といつも美しく片付いているのです。出したものは、すぐに元の位置に戻す。出したままにしない。徹底されているのです。
また、Nさんにとって、床を拭いたり、磨くこと、それは掃除でなく、膝をまっすぐにのばして欠かさず行う毎日のストレッチなのだと言われます。普段、私たちが日常よく使う鍋やボールを取り出しやすい身近な所へ置くこととは逆に、Nさんは、一番遠い、又一番高いところへ収納しているのです。よく使うものほど、背伸びして腕をしっかり伸ばさなければいけないところへと置かれています。
わざわざジムへ出掛けなくても、日常の中でしっかり体を動かすことができるように考えられているのです。
考え方がとてもシンプルで、はっきりとされています。すべてのことが 前もってしっかりと準備されていて、 あわてることがありません。こんなに素晴らしい方がいらっしゃるのかと、いつも感心させられていました。
ただ、一つだけ残念なことがありました。それは、宝石にご縁がなかったこと。とても、もったいない気がしました。
ジュエリーとは、宝石とは、その歴史や美しさ、宝石を持つ 又、身に着ける意味や価値や喜びをお話しさせていただいたことで、すぐに、その素晴らしさ、価値に気づいてくださり、お求めいただくことになりました。
ダイヤモンドのネックレス、ブラックオパールのピンブローチ、マーキス・カットのルべライトのリング、真珠のイヤリング…。優しいまなざしで、本当に丁寧に選んでくださり、とても大切に身に着けてくださったのです。
ダイヤモンドのネックレスはお洋服やシーンに合わせて細く長い首にチョーカーで、独特のやさしい色が遊ぶブラックオパールのピンブローチは胸の絶妙な位置につけられています。その一つ一つが、ただ、それだけが目立つのではなく、素晴らしくその素敵なマダムと調和して、一体となっているのです。何とも、洗練されているのです。
本物の宝石を身に着けるということは、こんなにも身も、心も、美しく凛とさせるものかと、驚きました。
「デザイン」の語源は、ラテン語でそぎ落とすこと。あれこれ足すことではなく、大切なものだけを残して、あとはそぎ落とすこと。
素適なマダム、Nさんの生活スタイル、考え方、時間の使い方、そして宝石の持ち方、装い方、全てが見事にデザインされていて、魅力的だったマダムは、誰をも魅了するマダムとなりました。本物に、より一層の磨きがかかったのです。宝石には、外面だけではなく、その内面までもを美しく輝かせる力があるのです。宝石が、目に見えないものを、しっかり感じさせ応援してくれるからでしょうか。
■一本の真紅のバラのように ■2015年1月7日 水曜日 14時57分5秒

お客様の中に現在82歳、素敵にジュエリーを身につけていつもおしゃれな女性がいます。頭から足の先まで、本当に気を配られていて、お会いするのがとても楽しみな素晴らしい女性です。お話されることは、いつも楽しく前向きなことばかりで、そのような考え方がとても大切だと、学ばせていただきます。
 その女性の名はKさん、実はKさんが63才の時、思いがけない大変なことがありました。ご主人と息子さん それにお姑さんとの四人家族。ある日、お姑さんの不注意がもとでお風呂の水が熱湯となり、慌てて処置をしようとされたKさんが大やけどを負ってしまったのです。大変な惨事でした。
ご本人のたいへんさ、またご主人のお気持ち、そして何より、自分のせいでと思われたお姑さんのお気持ちは、いかばかりだったことでしょう。入院されてからの毎日の包帯の交換は、口では表せないような大変な痛みでした。身もこころもズタズタな毎日。そんな時、今でも続けられているコーラスの先生が、突然病院にあらわれてそっと一本の真紅のバラを差し出したのです。何の包装もされていない、たった一本のバラです。
そのバラを手渡しながら「あなたらしい花を持ってきたのよ」、その先生のお姿と心のこもった優しく温かいことばが、痛みを取り去りたいへんな勇気をKさんに与えました。
今でもはっきりとその情景が浮かぶそうです。
 たった一本のバラ・・・そのバラに込められた優しさや温かい想いは、しっかりと届けられました。そして、四ヶ月間の長い入院生活を乗り越えられたのです。退院後、そして今でもその痛みが全くなくなった訳ではありませんが、Kさんとお姑さんは、とても仲良く過ごされました。辛い時、たいへんな時、Kさんのこころの支えは美しい宝石を見ることでした。
 お姑さんが100才を迎え、市長さんからお誕生日の記念品が届けられた日、何も理解できなくなっているお姑さんは、一番お気に入りだったジュエリーを身につけてもらって、素敵なお写真を撮りました。何と幸せなお姑さんでしょう。102才、自宅で眠るように亡くなられる日まで、いつも変わらず家族から話しかけてもらい、ジュエリーを身につけてもらっていたのです。亡くなった日、白装束はたたんでお棺の足元に入れられていました。お姑さんが一番お似合いだったブラウスとスカートが着せられていたのです。その手元には赤い珊瑚の数珠が添えられていました。
 Kさんにとって、宝石とはどのようなものですか?という質問に、「宝石はねぇ〜、私の分身なのよ。」と答えられました。
「辛いことや悲しいことがあった時、自分自身をいたわるように宝石が愛おしくなります。楽しい時、嬉しい時は、宝石と共に一層嬉しくなります」と。Kさんの人生の様々な場面で 宝石がいつも傍にあります。
あのたった一本のバラのように、ひとつひとつの宝石が人の心を優しく包みこむのです。宝石は、単なるものではありません。 
美しい宝石も、そしてお一人お一人も、唯一無二の存在。かけがえのない素晴らしい存在なのではないでしょうか?
http://www.j-tanaka.com/
■最終回 ■2014年12月17日 水曜日 15時14分15秒

今年の一月から連載を開始しましたが、第一回目の題名については正直悩みました。世界の流れをお伝えする為に始めたコラムですから、一番インパクトのある流れについて書こうと考え、「資源戦争」とさせて頂きました。その流れが小笠原諸島の宝石珊瑚にまで来るとは、あの時は思いませんでした。日本は法治国家ですし、領海内に数百隻の密漁船が来る事なんてあり得ないと普通は考えると思います。仮に密漁船が領海内に来たとしても、追い返す事が出来るだろうと考えると思います。しかし、これが「資源戦争」なのです。中国の密漁船が引き揚げた後の海底写真を見ましたが何も無くなっていて、海底の砂漠という表現が最も適切かもしれません。宝石珊瑚の成長には最短でも50年から100年の年月が必要だと聞きました。その間、魚が産卵する珊瑚礁が無ければ生態系のバランスはどうなるのでしょうか。
私も宝石商として宝石を仕入れ、販売する事が仕事です。しかし、生態系のバランスを考えない密漁は私も含め、皆様も望んではいない事だと思います。これ以上の密漁被害が起きないように、日本政府にはしっかりとした対応をしてもらいたいと切に願います。
本題に入りますが、今回の連載で最終回となります。前回の連載でもお話させて頂きましたが、次代の宝石ビジネスの在り方についてもう少し考えたいと思います。
先日、私のタイの友人が日本の消費者はなぜ宝石を購入するのかと質問してきました。彼はタイ国内でジュエリーの小売店を三店舗経営しています。そのほとんどのお客様は海外からの高齢な観光客だと聞きました。若い方達はジュエリーを購入しないのかと尋ねてみると、興味はあるけど国際的な鑑別書が付いてないと購入しない事や、価格や品質を信用してない方が多いようです。聞けば聞く程に日本の状況と似ていると思いました。
これから若い方へジュエリーや宝石を販売するには国際的な観点からみてもこの問題を解決していかなければなりません。
世界的なブランドジュエリーは市場価格より高価であってもネームバリューやステータスがあります。しかし、一般的なジュエリーがそのステージに上がるには莫大な宣伝広告費が必要になり、現実的ではありません。
市場価格という観点、適正価格という観点を常に意識して一般消費者へ価格提示していく事と、国際的観点に基づいた虚偽の無い品質説明責任を行っていく事が現実的な問題解決方法ではないでしょうか。
次世代へのジュエリービジネスは簡単ではないと思います。本物だけが残れる時代になるのではないでしょうか。
■第十一回「グローバルスタンダード時代」 ■2014年12月17日 水曜日 15時11分37秒

私の連載も残すところ二回となりました。今までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
バンコクからの情報を主にコラムを連載させて頂きましたが、残り二回は日本における次代の宝石ビジネスの在り方について少し考えてみたいと思います。

太古の昔より存在し、数々の歴史を彩ってきたのが宝石だったのではないかと思います。
実際、世界中の国々に宝石の文化があり神秘的な何かを宝石に求めてきたのだと、その圧倒的な存在感と美しさが人々を魅了してきたのではないでしょうか。
古代の宝石は神事に用いられ、中世の宝石は権力の証に用いられ、現代の宝石は採掘や研磨・処理技術の向上により世界中の沢山の方が所有出来るようになりました。
技術の進歩によって宝石が身近な存在になった事は昔の方々からしてみればとても羨ましい事だと思います。身近な存在だからこそ先人達が残してきた宝石文化をしっかりとした形で受け継ぐ努力をしなければ宝石文化は衰退していくのではないでしょうか。
私の経験上のお話で恐縮ですが、日本の市場には三つの流通セクションがあり、輸入元、メーカー・卸問屋、販売店、もっと大きく考えますと各会社で宝石の取扱い方が違うような気がします。最終消費者であるお客様の喜びや満足度、信用・信頼という点をそれぞれの流通セクションや各社が共通課題とし、一緒になって輸入元やメーカーの知識と小売業のサービス知識を勉強する事が宝石本来の価値や魅力を最終消費者のお客様にお伝え出来る事に繋がるのではないでしょうか。
金やプラチナは相場がある程度判るので安心してお客様にお勧め出来、日本国内でも沢山流通しています。宝石も沢山流通していると思いますが、相場や品質が判りにくい点と設定金額が取扱い会社で異なる点等、最終消費者から見ると不安になる事も多いと思います。
通信技術の向上やインターネットの普及、以前と比べて手軽で簡単に海外に行ける時代です。これからの宝石はグローバルスタンダードでなければ通用しなくなる日も近いと思います。

宝石のグローバルスタンダード化が進む事でお客様が更に安心して購入出来るようになるのではないでしょうか。
ジュエリーデザインや製作技術も脚光を浴びる機会が増えれば更なる「文化として」「産業として」成り立つのではないかと思います。

グローバルスタンダードの観点から大切な方への贈り物や所有する事への喜びをご提供していく先に次代のビジネススタイルが在るのではないでしょうか。
■第十回「コランダムの知識」 ■2014年9月30日 火曜日 13時37分34秒

コランダムの過熱や非加熱の知識について

先日、御嶽山が噴火しました。本州での久しぶりの火山噴火という事もありますが、改めてマグマの怖さ、破壊力を実感しました。
被災者の方々には心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復旧、復興をお祈り申し上げます。

本題に入りますが、今回はコランダム(ルビー・サファイア)の加熱処理や非加熱について私が海外で学んだ知識を少しお話しさせて頂きます。
コランダムの加熱処理が始まった歴史には諸説あるそうですが、素焼きによる加熱処理は13世紀頃から始まったと聞きました。それから数世紀後の1960年代の後半頃にタイでボラックス(珪砂)を使用した加熱処理が成功し、昔から行われていた素焼きとボラックスを使用して加熱されたコランダムが一般的な加熱処理として世界各国で流通しています。加熱処理されたルビーやサファイアの流通価格についてですが、美しい品質であれば市場では信じられないくらいの高値で取引きされます。世界の宝石商の方々は加熱処理をしても美しくなるルビー、サファイアは一握りしかない事を理解しているからだと思います。
次に非加熱のルビー、サファイアについてですが、非加熱で美しい品質になれば当然の事ですが加熱処理されたルビー、サファイアよりも高価で取引きされます。私の経験上のお話ですが、加熱処理された美しい品質のルビー、サファイアと同等、若しくはそれ以上の品質の非加熱ルビーやサファイアを市場で探す事は本当に難しいと思います。宝石は人工的に生み出せる物ではありませんので、美しい品質として産出される原石の量も限られるからだと思います。
近年では、ルビーの新鉱山としてモザンビーク産のルビーが市場に増えてきました。その中には非加熱で取引きされるルビーも数多くありますが、美しい品質という視点で考えると少し黒ずんだルビーが多く、私は好きになれません。しかし、市場では中国人バイヤーに少し黒ずんだ非加熱ルビーの人気があるようで面白いと感じてしまいます。ルビーを欲している方が中国国内に沢山いる為に美しい非加熱ルビーが無ければ多少品質が悪くても気にしないといったところでしょうかね。
サファイアについては新しい鉱山が発見されない限りは当面の間は品薄の状況が続くと思われます。非加熱や加熱処理で美しい品質のサファイアがルビーの価格を抜くのも時間の問題かもしれません。

コランダム(ルビー・サファイア)の処理技術は近年では鉛ガラスを使用した加熱やベリリウム使用した加熱等も行われておりますが、
買付けの現場では基本的に処理情報は開示されて取引きされます。バイヤーの方も以前から取引きされる素焼きとボラックスを使用した加熱以外は新処理方法と認識して買付けされていると思います。詳しく知りたい方は鑑別機関の方に聞いてみるのも良いかと思います。
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■第九回「コランダムの価格」 ■2014年9月30日 火曜日 13時36分50秒

海外で学んだ宝石の専門的な知識について

初回から前回までのコラムはバンコクから見た世界マーケットの状況やジュエリー文化等をお話しさせて頂きましたが、残り四回となりましたので、私が海外で学んだ宝石の専門的な知識について数回に分けてお話しさせて頂ければと思います。

題名にもありますが、コランダムはルビー、サファイアの鉱物名です。宝石名の方に馴染みがあると思いますので、以下ルビー、サファイアと言わせて頂きます。
ルビーやサファイアの価格はどうやって決まるのかという点において、少し説明させて頂きます。原石の価格そのものは自然から産出されますので、価格が最初からあるわけではありません。簡単にイメージできる例として、漁師さんをイメージして下さい。魚も海や川から獲れますので、最初から価格は有りません。では、どういった魚が高値で取引されて流通しているかと考えると、美味しくて、人気があり、なかなか数の獲れない魚です。
私は宝石も同じだと思います。特にルビーやサファイアは世界的に人気がある宝石で、品質の良いものは沢山産出されていません。特に今は中国の経済成長により、需要と供給のバランスが大きく変化し、元々希少価値の高い品質の良いルビー、サファイアは原石の取引価格が急騰してしまいました。品質の良い宝石があれば価格は気にせず沢山の量を買付けする中国からのバイヤーにより、現在では少量の買付けを行うバイヤーでは良いルビー、サファイアが現地で見る事も出来なくなりました。
こういった需要が品質の良いルビー、サファイアの宝石価格を急騰させている原因となっております。
では、品質のあまり良くないルビー、サファイアの価格も急騰しているのかと言うと、そうではありません。
宝石のサイズや種類によっては価値や価格のあり方が一概に言い切れない部分もありますので、ルビーの1カラットの品質で説明させて頂きます。三角形をイメージして考えてみて下さい。良い品質は三角形の頂点になる一握りしかありません。品質が下がるにつれ三角形の底辺に近づいていきますので沢山産出されるという事になります。 
世界的な流れなのですが、安価であまり品質の良くない宝石の人気が下がり、高価で希少価値の高い宝石の人気が上がっています。宝石の鉱山関係者は低品質の原石が良い値で取引されない状況なので、人気があり、希少な高品質の原石価格を上げて採掘経費のバランスを維持しようとしているようです。
この世界的な状況では良い宝石が値下がりする事は無いように思えますが、既に所有されたお客様にとってみれば価値が上がっているという事になりますので、良い事のように思います。
次回はコランダムの過熱や非加熱の知識について、海外で学んだ事を少しお話しします。
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■第八回 「ヨーロッパの宝石商と中東の宝石商 後編」 ■2014年8月4日 月曜日 16時33分46秒

イスラム圏は宗教上、一夫多妻制が認められています

タイのクーデター騒動が治まってきたと思っていたら、ウクライナの内戦やイスラエルとパレスチナの衝突、イスラム圏ではイラクのスンニ派組織によるイスラム国の建国等、最近の世界情勢は何かバランスがおかしくなっているように思えます。
マネーや資源戦争が引き起こす副産物が本当の戦争なのかもしれませんね。

前回、私の知人のヨーロッパの宝石商を元にお話させて頂きましたので、今回も私の知人の中東の宝石商を参考にしてお話させて頂きます。
中東は言わずと知れた宗教色が強い地域で、ライフスタイルも宗教の影響を強く受けている地域です。近年、ドバイが商業都市として発展した事で中東貿易の拠点となりました。
私自身も八年程前に初めてドバイに行きましたが、砂漠とラクダのイメージとは全く異なる光景で、大型の商業施設やビル群が砂漠の中にある不思議な感覚でした。大型商業施設の中にある知人の宝飾店へ伺い、店頭に並んでいる宝飾品を見させてもらいましたが、指輪にしても装身具にしても、とにかく大きいデザインばかりで、日本との宝飾品文化の違いが良くわかりました。
当時、私はドバイの宝飾店に卸しているバンコクの製品工場に色石素材を供給していました。実際の中東マーケットを見聞する事でなぜ大ぶりなデザインが好まれるのかが理解出来ました。
一つの例としてイスラム圏は宗教上、一夫多妻制が認められています。しかしながら生命保険等の環境が日本のように必ず加入している状況ではなく、夫に何か事故があった時の保険金のような感覚で金や資産価値のある大きい宝飾品を貰っておきたい願望があるようです。当然、お金持ちの方には沢山の奥様がいらっしゃるので奥様の人数分プレゼントしなくてはなりません。宝飾店にとってみれば嬉しい文化かもしれませんね。
次に宝飾店としての販売方法を聞いてみると観光で来るお客様には店頭販売が多いようですが、お金持ちのお客様にはお宅へ訪問して販売する外商販売も多いようです。
外商販売の特徴としましては商品と商品代金は引き換えではなく、掛け売りのような信用売りで代金の支払いは後日という事が多いようです。VIP専用の集金係という仕事もあるようでコネのある人間関係でないと早く支払いをしてくれないケースが結構あるようです。
中東には桁外れなお金持ちが沢山いますが、宝飾品の商売を成立させるにはコネと人間関係が最も重要だという事が良くわかりました。
■第七回「ヨーロッパの宝石商と中東の宝石商 前編」 ■2014年7月2日 水曜日 13時17分32秒

タイのクーデター問題も大きな事故は現在のところ無いようです。毎度の事ながら思うのですが、経済ダメージは決して小さいものではないのに何故定期的にこのような政治問題が頻発するのか、この国の持病のようなものなのかもしれませんね。
手術をして治る病なら時間を掛けてでも治す時期になったのかもしれません。

今回のお話は二部に分けての連載になります。
日本のマーケットで働かれている方が多いと思いますので日本の市場の流れは良くご存じだと思いますが、海外のマーケットでは宝飾品がどのように販売されているのか、流通されているのかを知る機会はなかなか無いと思います。
私の知る範囲で恐縮ですが、ヨーロッパと中東のお客様からお聞きした現地の宝飾品市場のお話しをさせて頂きます。
宝飾品といえばヨーロッパというイメージがまず出てくると思います。ヨーロッパの流通、販売の特徴ですが、メーカー、ブランド代理店と販売店というシンプルな流通形態で構成されています。宝飾品販売店のオーナーやバイヤーが定期的にメーカーを訪れて仕入れや委託販売のスケジュールを打ち合わせます。
シンプルにする事で販売価格を安価に抑えるという事が一番の理由のようですが、販売店のスタッフにもメーカーやブランド代理店との直接の交渉や、やり取りをさせる事で知識やスキルの上でプロとして自覚した対応が出来るようになる事も理由のようです。ある程度規模が大きい会社になるとブランドプランナーに委託して販売戦略を考えてもらうのも特徴的です。

少し話がずれますが、ブラジルでサッカーのワールドカップが行われています。残念ながら日本は敗退してしまいました。しかしながら日本チームの主力メンバーはヨーロッパリーグでプロ選手として活躍している選手がほとんどです。宝飾業界に置き換えてみるといろいろなヒントがあるように思えます。
サッカーのように沢山の日本人がヨーロッパの宝飾品文化を本場で勉強し、知識を得て日本で活躍されたら更に日本の宝飾品文化が開花するのではないかと思います。サッカーも日本でプロリーグが出来たのは約二十年前です。それから現在に至るまでに沢山の日本人選手が世界のプロリーグで経験を積み、又は本場で活躍した外国人選手が日本のプロリーグで日本人選手に世界最高峰の技術や知識の影響を与えた事により、ワールドカップに毎回出場する日本サッカーへと生まれ変わりました。
日本の宝飾文化を更に上げるには、本場を意識して切磋琢磨していく事ではないかと考えてしまいます。
次回は独特なマーケット中東の宝石商のお話です。
■第七回「ヨーロッパの宝石商と中東の宝石商 前編」 ■2014年7月2日 水曜日 13時17分26秒

タイのクーデター問題も大きな事故は現在のところ無いようです。毎度の事ながら思うのですが、経済ダメージは決して小さいものではないのに何故定期的にこのような政治問題が頻発するのか、この国の持病のようなものなのかもしれませんね。
手術をして治る病なら時間を掛けてでも治す時期になったのかもしれません。

今回のお話は二部に分けての連載になります。
日本のマーケットで働かれている方が多いと思いますので日本の市場の流れは良くご存じだと思いますが、海外のマーケットでは宝飾品がどのように販売されているのか、流通されているのかを知る機会はなかなか無いと思います。
私の知る範囲で恐縮ですが、ヨーロッパと中東のお客様からお聞きした現地の宝飾品市場のお話しをさせて頂きます。
宝飾品といえばヨーロッパというイメージがまず出てくると思います。ヨーロッパの流通、販売の特徴ですが、メーカー、ブランド代理店と販売店というシンプルな流通形態で構成されています。宝飾品販売店のオーナーやバイヤーが定期的にメーカーを訪れて仕入れや委託販売のスケジュールを打ち合わせます。
シンプルにする事で販売価格を安価に抑えるという事が一番の理由のようですが、販売店のスタッフにもメーカーやブランド代理店との直接の交渉や、やり取りをさせる事で知識やスキルの上でプロとして自覚した対応が出来るようになる事も理由のようです。ある程度規模が大きい会社になるとブランドプランナーに委託して販売戦略を考えてもらうのも特徴的です。

少し話がずれますが、ブラジルでサッカーのワールドカップが行われています。残念ながら日本は敗退してしまいました。しかしながら日本チームの主力メンバーはヨーロッパリーグでプロ選手として活躍している選手がほとんどです。宝飾業界に置き換えてみるといろいろなヒントがあるように思えます。
サッカーのように沢山の日本人がヨーロッパの宝飾品文化を本場で勉強し、知識を得て日本で活躍されたら更に日本の宝飾品文化が開花するのではないかと思います。サッカーも日本でプロリーグが出来たのは約二十年前です。それから現在に至るまでに沢山の日本人選手が世界のプロリーグで経験を積み、又は本場で活躍した外国人選手が日本のプロリーグで日本人選手に世界最高峰の技術や知識の影響を与えた事により、ワールドカップに毎回出場する日本サッカーへと生まれ変わりました。
日本の宝飾文化を更に上げるには、本場を意識して切磋琢磨していく事ではないかと考えてしまいます。
次回は独特なマーケット中東の宝石商のお話です。
■第六回 高品質ブルーサファイヤの価格急騰 ■2014年6月2日 月曜日 12時58分19秒

タイ国で、またまたクーデターが起きました。
ジュエリー業界においてタイ国の存在は、小さくありません。
心配されている方も少なくないと思いますので、私の現地法人からの情報を元に現在の現地状況を説明させて頂きます。
バンコク市内に大きな混乱は今のところは無いようです。ジュエリー業界は普段と変わらない業務を行っていますが、絶対に安全とは言い切れません。
しかし、日本の業者の方には宝石やジュエリーの供給をタイからの輸入に頼っておられる方も沢山いますので、仕事として考えるなら行くしかありませんよね。状況が落ち着くまでは、なるべく夜間の外出等は控えた方が良いかもしれません。一日も早く良い方向で解決することを願っておりますが、通常の選挙が行われるようになる迄は、時間がかかるようなことを聞いております。
長期間、タイからの供給を止めることも出来ませんので、細心の注意を払って行くしかありませんね。
皮肉な話ですが、タイ国民はクーデターに慣れてしまっておりますので、普段と変わらない生活をしていますし、軍が介入したことにより、良くなるとの見方をされている人達も多いようです。

今回のお話は、サファイヤについてです。
サファイヤとは、ルビー以外のコランダムを一般的にサファイヤと呼んでいます。世界的に人気があるのは、やはりブルーサファイヤになります。現在のブルーサファイヤの主な産出国はスリランカとマダガスカルになりますが、数十年前まではミャンマー(ビルマ)やインド、パキスタンの国境付近にあるカシミール地方でも産出されていました。
現在これらの産地では鉱山の枯渇、産出量の大幅な減少により良質なブルーサファイヤは大変貴重なものとなっていますので流通量は極めて少なく、もし日本で所有されている方がいたら世界的な古美術品を所有している感覚だと思います。

ルビー同様、高品質なブルーサファイヤも、ここ数年で信じられない程値上がりしています。特に、ここ一年の間で見ても1.5倍から2倍程値上がりしているように思います。
要因としては、中国人バイヤーが高品質な宝石を高値で買い占めていることが一番の要因ですが、絶対量の少ない高品質ブルーサファイヤは流通量も少ない為、敏感に価格が反応してくるのだと思います。このままいくと日本の市場にも高品質なブルーサファイヤが価格競争の問題からますます輸入するのが難しくなるように思います。
以前から何度も繰り返しておりますが、宝石は限りある資源ですので日本国内になんとか良い宝石を供給出来るように、より一層の努力をしなければならない状況になってしまっております。
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■第五回   「最高品質ルビー」 ■2014年5月1日 木曜日 14時9分18秒

消費税が先月から8パーセントに上がり、宝飾品も買い控えや様子見のお客様が四月は多いようなお話を聞くようになりました。
三月に増税前の駆け込み需要があったとはいえ、これからは毎月の支出が何もしなくても3パーセント増えるわけですし、来年には10パーセントになる予定で増税前の三月以降からの計算では5パーセント支出が増える事になります。
そういう流れの中では消費者のお客様として本当に価値のある品物や本当に欲しいと思うような品物は買われると思いますが、勢い任せの衝動買いは減るように思います。だからこそではありませんが、希少価値のある宝石、宝飾品や今しか手に入らないような品物をこれから是非お勧めして頂きたいと思い、今回は知名度も高く人気の宝石でもあるルビーの現状をお話させて頂きます。

皆さんご存知だと思いますが現在産出されていて、世界市場に多くのルビーを供給している原産国はミャンマー(ビルマ)とアフリカのモザンビークです。昔はタイ原産のタイルビーも有名でしたが色等の品質ではミャンマー産ルビーの方が美しいことから今では人気が無くなってしまっています。 
また数年前にタンザニアでも美しいルビーが産出され話題になりましたが、現在では産出されなくなっているようです。
本題に入りますが、現在世界中で人気があり希少で価格が年々上昇しているルビーは最高品質ルビーです。
以前はミャンマー産の最高品質ルビーが「ピジョンブラッド」の名称で最高品質の代名詞でしたが、近年ではミャンマールビーの産出量が激減した影響でアフリカのモザンビーク産の最高品質のルビーにも「ピジョンブラッド」の名称を認める流れになってきているのが現状です。
私のタイの友人も少し前まではミャンマー産のルビーの原石しか仕入れてなかったのですが、良質な原石が仕入れ出来なくなったという点からモザンビーク産のルビー原石の仕入れにシフトせざるを得なくなりました。
数年前にモザンビークでルビーの採掘が本格的に始まり、市場に流通した最初の頃はミャンマー産に比べると価格も高くはなかったのですが、高品質ミャンマールビーの流通量が少なくなると美しいモザンビークルビーの人気が高くなり、現在では価格もミャンマー産の美しいルビーと変わらないようになってしまいました。
シンプルに考えると美しいルビーは原産地がどこであっても人気があり、価値も上昇しているという事になります。
最高品質ルビーに興味をお持ちでしたら、早めに買われる事をお勧め致します。
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■第4回 宝石は夢 ■2014年4月1日 火曜日 11時56分58秒

おかげ様で4回目の連載になりました。
第1回から第3回ではスリランカとタイの宝石・宝飾品の流通事情を私なりに説明させて頂きました。
もっと深い説明が出来ればよかったのですが「百聞は一見にしかず」という言葉もありますし、価格や品質等の幅広いニーズがあるのも宝石・宝飾品の特徴であると思います。
タイ・スリランカに興味が有りましたら是非ご自身の眼で見て、そして現地の緊張感を味わって頂くのをお薦め致します。
現地に宝石商のお知り合いがいらっしゃらないという場合は微力ですが、私にお問い合わせ頂ければ少しはお役にたてるかと思います。
まずは本当の流通を知る事が大事だと思います。

次回のコラムからは私の得意分野であります
ルビーやサファイア等の高品質宝石について数回続ける予定です。
毎月1回、全12回の連載予定ですので少しでも沢山の方に宝石をもっと好きになって頂ければと思っております。

私自身、父親が宝石輸入商を営んでいたのがきっかけでこの世界に入りました。駈け出しの修行時代は、いまほど宝石に興味や魅力を感じていなかったのが本音です。
しかし、素晴らしい宝飾品をヨーロッパブランドの工場で初めて見た時、「本当に綺麗だ
」と今までに無い感情を抱きました。そして何が今まで見てきた宝飾品と違うのかを知るのには、時間は掛かりませんでした。
素材の良さと技術の高さの違いです。
私も宝石輸入商の端くれでしたので、当時はどうしたらこんなに素晴らしい宝石を買い付け出来るのかを考えました。
私なりの答えとしては、ヨーロッパ等の歴史ある国との経験値の差、文化の違いなど、ジュエリーに対する姿勢や浸透度が、日本はまだまだ大きく引き離されているのが現状だと気づきました。
高品質宝石は非常に希少であり、価格も高く、日本のマーケットでは難しい商品と見られがちです。しかし、これらの高品質宝石を望む声が、確実に日本でも聞こえる様になってきています。そしてお客様へ見る機会を作る事で、宝石・宝飾品に対する、夢や憧れを持つきっかけが出来るはずです。

日本でも宝石とは夢であり憧れだと、より自然に感じて頂く為に、日本人の宝石商として正しい知識と、世界の流通事情を知る向上心を持つ必要があると思います。

次回以降はルビーやサファイア等の宝石について、お話しをさせて頂きます。
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■第三回   2014年 『BANGKOK GEMS&JEWELRY FAIR』 ■2014年3月3日 月曜日 15時41分31秒

来月から消費税が上がりますが、海外の各国と比べると決して高くはないと思います。
タイ国での消費税も現在は7%ですので、国内の市場が慣れるまでは少し時間が掛かるかもしれませんが、あまり気にし過ぎない方が良い気もしますね。

今回は少し趣向を変えてライブ感を出したいので2月25日から3月1日の期間、バンコクで開催されているBANGKOK GEMS&JEWELRY FAIRの最新状況をお話したいと思います。
このコラムは2月27日に入稿させて頂きました。過密スケジュールにしてしまい編集長の藤井さんにこの場で一言謝らせて頂きます。

BANGKOK GEMS&JEWELRY FAIR (以下バンコク・フェア)は今回で53回目を迎えました。 国内の政治的問題を抱える中での開催になり、関係者の方々は開催当初、集客に不安を感じておられましたが、初日と二日目を見る限りでは心配なさそうです。
バンコク・フェアの主な特徴としては、やはり色石のルースが沢山展示されている事です。
バンコク市内の業者やタイ国内で最も大きい宝石の集積地チャンタブリからも、沢山の業者が自社の宝石を展示しています。タイ国内にはタイ人だけでなく、インド人などの多国籍な業者が沢山いるので、展示会場内のタイ法人専門ブースなのにいろいろな国の方々がいるのも面白いところです。
さて、今回のバンコク・フェアの色石の売買状況を見てみるとやはり中国市場を意識した品揃えが多いように思えます。中国市場向けなので、中国人や香港、台湾バイヤーだけが仕入れをするのかというと決してそうではありません。
中国人バイヤーが一番仕入れをする国際展示会は香港FAIRですので、そこに出展している様々な国の業者が、そこに商品として並べる為に仕入れるのです。
各業者が中国向けの商材を仕入れようとするので、それらの商材の価格は信じられない程上がっております。日本に海外のバイヤーが仕入れに来る一番の理由は、中国向けの商材価格がバンコクや各地の集積地で高騰している為、日本人バイヤーが以前の価格が高騰する前に仕入れた商材を探しにきているのです。
1月のIJTに仕入れで日本へ来た海外の知人に、色石で良い物が有ったか聞いてみたところ、最近は価格、品質的に面白い商材が日本も少なくなってきたと言っておりました。
少し前の話になりますが、中国市場で10ct以上のトルマリンが人気になり、価格が何倍にもなった事がありました。
現在、中国市場で人気がある色石は最高品質で1ct以上のルビー、サファイア、エメラルド等の貴石になっています。価格も数年前から比べると倍以上になっています。特にサイズが大きい石は信じられない価格になる事も珍しくありません。
バンコクの業者間でも価格が高すぎて手が出ないと、最近では取り扱いをやめる業者も増えてきました。
消費税率引き上げと円安、高品質商材の価格高騰、鉱山の枯渇等、問題山済みではありますが、資源価格は大きく変動する事がある事をお客様にも納得して頂く必要がありますね。
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■第二回「バンコクの技術革新」 ■2014年2月17日 月曜日 16時29分29秒

前回のコラムで予告しましたが、今回はバンコクの宝飾品製造についてお話します。
本題の前に現在バンコクのあるタイ王国では毎日デモが行われております。過去にもクーデターやデモ等の政治問題が起きていますが、現在行われているデモ等の政治問題は少し様子が違うような気がしています。タイ国民の皆様の将来に繋がる大事な問題ですので、日本人の私の私見は控えさせていただきますが、私自身タイに育てられておりますし、親日国家として東日本大震災の時なども日本へ沢山の支援を頂いております。
現在のデモが一日でも早く平和的に解決する事を心よりお祈り申し上げます。

バンコク市内や郊外には沢山のジュエリー工場があります。タイと言えば色石の裸石(ルース)をイメージされる方が多いと思いますし、ジュエリー技術と言えば当然、本場ヨーロッパ等をイメージされる方が多いとも思います。
十数年前にそれまで施行されていた外国人事業法が大きく改正され、外国人が工場をタイ王国に誘致した際に機械の輸入税の免除等の優遇措置が実施されました。
ヨーロッパや世界各地に生産拠点をおいていた工場がタイに移転してきた事から、タイ国内の宝飾技術が飛躍的に伸びたといっても過言ではありません。しかし、それらの高い技術を持つ工場は、既存のお客様である宝石商のオリジナル宝飾品製造が主な為に、バンコクフェア等ではなかなかお目にかかれないのが現状です。
良い宝飾品を製造する為の大事な要素である“宝石素材の調達”と“宝石研磨技術”において、バンコクは最高のロケーションですし、バンコクメレー等の高品質のダイヤモンドが流通する背景には、高級宝飾品を製造している工場が沢山使用するので、バンコクには良質なダイヤモンドの材料があるのです。
バンコクで良い技術を持つ工場とお付き合いするには、まず紹介される事から始まりますが、国際標準語とされる英語の語学力と宝飾品への熱意や信念、知識を持つ事が大事です。
彼らはビジネスが大事だと思っていますが、最も大事だと考えている事は永くお付き合い出来る相手かという事と、良い宝飾品を製造するには時間が必要だという事を理解している人かという事です。
私も彼らによくお説教をされたものです。海外有名ブランドの商品開発等は、発売する年の二年前から製造していくと聞いています。
良いジュエリーとは時間を掛けて製造しているのですね。次回もタイ・バンコクのお話です。
■バンコクから見た『世界のジュエリー事情』 ■2014年1月20日 月曜日 16時40分58秒

第1回 『資源戦争』

 この度、タイ、バンコクで世界の宝石・宝飾品流通に携わっている経験を活かし、コラムを連載する事になりました。
 タイトルに大それた事を書いてしまいましたが、人類は遙か昔から資源を確保する為に戦争を起こしてきたという歴史があります。最近の日本も領土問題による外交摩擦をよくニュースなどで見る機会が増えました。そこに資源がなければ、もしかしたら平和的に解決できるかも知れませんね。タラレバですが、私はジャーナリストでもありませんので、本題の宝石の話に入らせてもらいます。
 
 私の海外の拠点は、自分の会社があるバンコクですが、良い宝石があると聞けば、何処にでも出かけます。バンコクの話は、次の機会にしてこちらも宝石の国として知られるスリランカの話から始めます。
 スリランカはインドの南にある島国で、太古の昔はアフリカ大陸とつながっていたといわれる島です。そのせいか、マダガスカル産によく似た宝石が数多く産出されます。産地証明の鑑別で誤認が生じてしまうのも、そういった特徴からだと思います。
 スリランカの宝石市場は、バンコクとは少し違い、世界中の宝石バイヤーに来てもらうスタイルも当然ありますが、海外のレギュラーカスタマー(上得意顧客)が求めるそれぞれの品質に合わせた宝石を用意して、定期的に輸出してもらうスタイルもスリランカの特長といえます。
 スリランカの宝石商は、イスラム教徒の人が多く、仲間を大事にする文化から、そういったスタイルが生まれたのかも知れません。実際私がスリランカに行くと、毎晩友達の家に招かれ、宝石談義を夜中までさせられます。本当に純粋に宝石が好きで、この仕事をしているのだという気持ちがとても伝わります。
 彼らは宝石が純粋に好きな人に、良いものを持ってもらいたいと、毎回毎回熱弁を振るっています。彼らにとっても、良い品質の宝石は、中々入手できないという事がよく分かります。スリランカに行くと、いつもこころが洗われてしまいます。
 そんなスリランカの市場にも中国人バイヤーが増えてきました。旧知のスリランカ人に聞くと、良い品質の宝石なら今までの金額の2倍から3倍でも払うといいます。だから良い品質の宝石は価格が高くなってしまったのだと。
 また彼らは、アフリカの鉱山や世界各地の鉱山・集積地まで買い付けに行く為、スリランカ人も、最近は良質な宝石を安く買い付け出来なくなって困っているそうです。「資源戦争」に宝石も含まれてしまったのだと実感せざるを得なくなりました。
 次回は、バンコクの宝飾品の製造技術についてお話させていただきます。
y-hiramatsu@k-hiramatsu.jp
■平松良夫氏が「バンコクから見た世界のジュエリー事情」コラムを連載。 ■2014年1月20日 月曜日 16時40分20秒

宝石産地の現状と、バンコクのジュエリー製作現場からの最新情報

タイのジュエリー協会にも加盟する現地法人を9年前にバンコクに立ち上げ、新たな宝石の供給ルートやジュエリーの製造拠点を確立した芥IRAMATSUホールディングス代表取締役社長である平松良夫氏【写真】のコラムがスタート。タイ、スリランカ、ミャンマーなど東南アジアを中心とした宝石産地の現状と、バンコクのジュエリー製作現場からの最新情報を連載する。
平松氏は家業である宝石商となるべく父親の経営する潟qラマツに入社。その後単身タイに渡り現地法人絵EMOTIONを設立、国際的視野から宝飾業界を見つめ直し、現在3つの会社を経営、日本とタイを往復する日々を過ごしている。
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